はじめが肝心

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「第一話で読むのをやめるなと言いたい作者の気持ちもわかるが、第一話で読むのをやめる読者の気持ちもわかる。どちらにしても第一話、第一行目を舐めてはいけない。それは前戯と同じだ。前戯は舐めれば終わりという単純なものではなく、楽しい本番の為にある重要な儀式なのである」


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■解説

 アーダルトは、エロを自負しているが、それだけの男ではない。

 愛情というものを大事に考えており、幸せな性戯というものを目指していた。例えば強姦プレイにも興味があるようだが、あくまで「プレイ」であり、男女ともに楽しめることが前提で考えている。

 もちろん基本の性交に関しても、ただするのではなく互いに楽しめるという意味で前戯の重要性を常日頃から訴えていた。

 彼が前戯をどれだけ大事に考えて、研究していたのかは、彼のノートに「前戯大全」と書かれたものがあることからもうかがい知ることができる。そのノートには、あらゆる前戯を記載していたという。彼の愛情の深さがわかるエピソードだ。


 ところでこの格言では、その重要な前戯と同じように、第一話目・第一行目は大事なものだと語っているが、これは小説のことだと思われる。

 特に、今のブームであるWeb小説にはピッタリとあてはまるだろう。

 ハードコピーとして発売している「書籍」は、1冊単位で購入することが基本である。つまりすでに代金を払ってしまっているので、最後まで読む人も多い。

 しかし、Web小説は自由に読むのをやめることができる。また、昨今の電子書籍版は、文頭を簡単に試し読みできるものも多い。こうなると、読み始めが面白くなければ、読者は読むのをすぐにやめてしまうだろう。


 これはプロだけではなく、アマでも同じことである。


 読者が積極的、好意的に「読み続けよう」という意思がない限り、面白くなければ読むのをやめられてしまい、そういう感想だけが残る。

 だからと言って、ただの読者に「積極的、好意的に読んでください」「そういう感想を書かないでください」とお願いするのもお門違いである。


 逆に、ただの読者ではなく、批評家、指導者、切磋琢磨する仲間ならば、そういうお願いもありだろう。読み進めてもらうことで、どうしたらよくなるのか、どこがよかったのかの総合的評価をもらうこともできる。


 ただ普通は、批評家、指導者、小説家仲間に向かって作品を書いているわけではないはずだ。小説家は、普通の読者に向かって小説を書いているはずである。そして普通の読者は、苦労して作品を読みたいわけではない。作品を楽しみたいのだ。

 ならば、第一話・第一行目は、これからの本番を盛り上げるだけの素晴らしい前戯でなければならない。気持ちよくない前戯をしておいて、「本番は気持ちよくするから」と言われても説得力がないわけである。


 ちなみに「はじめが肝心」という言葉と同時に「終わりよければすべてよし」という言葉もある。

 アーダルトも「前戯だけではなく、後戯も忘れずに」と語っている。どんなに始まりがよくても、結末が尻つぼみでは意味がないということだ。余韻をも楽しめる作品が素晴らしいということだろう。


 これは蛇足だが、アーダルトのノートに「後戯大全」は見つかっていないようである。

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