アーツ・ホルダー
字理四宵
プロローグ
宮廷の壁にもたれて、僕と剣精は話をしている。
等間隔に建てられたかがり火は暖かさを伝えないくらいに離れていて、静かに爆ぜる音は僕たち二人の会話を妨げない。
時は深夜。吐く息は白く、周囲には見回りの兵士くらいしか、いなかった。
「つまり、アーツとは……」
剣精が、本題に入った。熱く語る彼女の深い緑色の瞳には、かがり火以外の光が入っている。
「初見殺しに、他ならない」
「初見殺し?」
「そう。どんなすぐれたアーツも、万全の対策を取られれば効力を発揮しない」
「……そりゃ、そうだけど」
「だからこそ、使う場所が大切なんだ。おいそれと名前を叫んだり、大衆の前で使うものじゃない」
「うん」
「だから、お前は基礎力を上げなくてはいけない。基礎を極めに極めた私ぐらいになれば、アーツなんてものに頼らなくても無敵なのだ」
「うん、そうだね。剣精は本当にすごいよ、綺麗だし」
「……は?」
剣精が、きょとんとした顔になる。普段は乱れなく彼女を覆っているマナが、一瞬波打つ。
(……隙あり)
僕は腕の死角に隠していたナイフを腰と肘の最低限のモーションで剣精に投げる。暗がりの中ということもあって、正面からでも気づかれにくい投擲……のはずなのだが。
「ば、バカなことを言うんじゃない」
左手は赤くなった頬を抑え、右手は顔の前をぶんぶんと振られている。……そのついでに、僕のナイフは二本指で掴まれていた。
「半端ないなぁ」
「まったく、だいたい、いくつ歳が離れてると思っているんだ。そもそも、精霊体の私がそんなに簡単に……」
「よし」
僕は、剣精の手をつかむ。
「ほらっ!そういうのっ!気安く!」
「剣精、続きをやろう!」
「……え」
「稽古の続きだよ。休憩しすぎると、体が冷えちゃうよ」
「け、稽古か。よし……うん、よし……やるか!」
こうして、今宵も剣劇の音が宮廷に響き渡る。
ここは、小さな王国ナブココ。やがて、世界最悪の怪物が誕生する地である。
アーツ・ホルダー 字理四宵 @atheri_shiyoi
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