◯◯◯さん……

◯◯◯さん……

　一週間前のことです。

　旅に出る前、私は忘れ物をしないよう、夜中にiPhoneにメモをしていました。

　iPhoneの充電器を忘れないように、と思い、

「あいふぉ……」

とメモに打ち込んだところで、一番最初に出た変換が、

「◯◯◯さん、」

　おばあちゃんの名前でした。

　でも、おばあちゃんの名前には、『あ』も、『い』も、『ふぉ』も入ってはいません。

　……おかしいなーと思いながら、また、

「あいふぉ……」

と入れかけると、

「◯◯◯さん、」

　おばあちゃんはもう百歳近く。

　長く入院しているので、ちょっと心配でしたが。

　余計なことを言って、みんなを心配させても、と思い、そのまま旅に出ました。

　旅から帰って、よかった、なにごともなかった、と思っていたのですが。

　そんな変換が出てから、一週間後、おばあちゃんは亡くなりました。

　私がせっせと旅支度をしているのを見て、おばあちゃん、帰ってくるまで、待っていてくれたのでしょうかね？

　あれから、

「あいふぉ……」

と打つのが怖いので、まだ、打ち込んだことはないのですが。

　今、打ったら、なんと変換されるのでしょう？

　すぐに普通に、『iPhone』と変換されても、怖いですね――。