大会
第7話 2日目第7試合前半
遂に俺の出番が来たか……虚は一回戦をシードで勝ち上がり、試合会場に足を踏み入れる。そして相手が登場する。虚の相手は中肉中背の男で疲れ切った顔をしておりどこか震えている。
そして直ぐに受付嬢がその男に近づき何かを話し、胸元のバッチを取る。成る程な……あの男は一回戦で何か心に深い傷を負っている様だ。今は何も考える事も出来ないか……?受付嬢がその男のバッチを外した瞬間その男の目から光が消え、不安そうな表情は一切消え虚と全く同じ表情をし始めた。だが安心しろ、俺の能力故にお前は最高のポテンシャルを発揮できる筈だ。不安などの感情は無いだろう?
そして、虚はエントリー表を思い出し目の前の男と比べる。確かに紛れも無い人間で一切の強者の気配も感じさせない。そして、持ち物はポケットティッシュか……だが、こいつは一回戦を勝ち抜いている。あの戦いを見たがその原因はよく分からないままだ。だが、他の試合を見る限りこの大会は化け物揃いだ。こいつがただの人間である筈が無い。司会者がお互いの解説をしている間に虚はこんな事を考えていた。そして、試合開始のゴングが鳴る。
「さて、小手調べだ」
まずはあの男の能力を見ない限りはなんとも言えない。虚は虚を全力で殺すイメージを固める。
「なっ!?」
虚は驚いた。その男はかなりゆっくりの速度でのそのそと虚の方へと走ってくる。虚が驚くのにつれて対戦相手の男も動きを止める。ダメだ!俺がしっかりとイメージを固めなければ!虚はそう思い再び虚を殺すイメージを固めるが、結果は同じ。到底早いとは言えず虚にはとっては止まっているような速度で対戦相手の男は腕を振り回す。なんなんだ、あの男は……あれが全力だと!?
いや、もしかしたら俺の能力が効いていないのか!いや、だが奴は俺と同じ動きを……虚はもはやもう自分が何を考えているのか分からなくなっていた。まぁ、良い。多分あいつは肉体攻撃が得意じゃないだけだ……。それならば!虚は自分にできる最高の事を考える。虚は目にも留まらぬ速さで瞬間移動を繰り返した挙句虚像の実体を試合会場一杯に作り上げ試合会場は虚の姿で埋め尽くす。そして、それに対する対象の男はと言うと……。
「俺を舐めているのか……!」
もじゃもじゃの髪の毛を何本か抜きティッシュに糸を通すように使用し何かを作ろうとしていたのだが、虚が怒りを露わにするのと同時に目の前の男はいきなり作りかけの何かであるポケットティッシュを地面に叩きつけ怒りを露わにする。
「おい!ここは演舞の会場じゃないぞ!早く試合しろ!」
観客から野次が飛ぶ。その時虚の中で何かが壊れた。
「ふざけるなよ……?」
虚は長年生きていても精神的には殆どの事が思い通りになる人生を送っており、他人が反論する事は無かった。虚は徐々にイラつき始め殺気を周囲に放つ。その瞬間会場は静寂に包まれ、観客達は大粒の汗を垂らす。勿論相手の男もイラつき始め地団駄を踏む。だが虚はそれに気づき落ち着こうとする。
危なかった……このままでは失格だ。この男……本当に何も無いただの人間なのか?虚は思った。そして、ただの人間……つまらぬ……!俺に対してこんな相手をぶつけるとは……。虚の中に何とも言えない感情が渦巻くがあまり殺気をばら撒くと自滅しかね無いので虚は冷静を保つ。
俺をここまで錯乱させた報い……!しかと受けるが良い!もう虚は疑心暗鬼の考えを捨てていた。つまり、目の前の男をただの人間と見て勝負する事にしたのだ。何を今まで迷っていたんだ?相手はただの人間ではないか?この俺がただの人間如きに負ける訳がない!虚は勝ちを確信し笑みさえも溢れる。
そして、人間は淡い……!少しの衝撃で身体の骨は折れ、肉をも断たれてしまうだろう。それは今までの相手で分かっている。だが、今までの相手は悲鳴も上げなかった。何故ならば……虚の思考と一致している為だ。自分が自分の力で仲間の力で傷つけられ死んでいく!それにも気がつかない愚かな種族!もしも目の前の男が本当にただの人間であったならば!その男も同じ運命を辿るだろう!
虚はそう考えて地面に頭を打ち付けるイメージを固める。
「うわぁぁ!!!」
目の前の男が自ら頭を地面に叩きつけ、辺り一面に鈍い音が響く。
「おいおい、あの男は何をしているんだ!血迷ったか!?」
観客がざわざわとざわめき始める。まだだ!まだ死んで貰っては困る!こんな人間の死に方は俺は幾らでも見てきたんだ!もっと俺を楽しませろ!そう思った虚は自身の身体を殴るイメージを固める。目の前の男は為す術なく、自分で自分を殴り続ける。
あまりの訳が分からなく残酷な試合展開に会場は混乱に包まれ再び野次を飛ばす者もいれば目を覆い、会場を見ないようにする者も現れた。
さぁ、外野は盛り上がるが良い!これからが人体ショーの始まりだ!虚が両手を広げて笑みを浮かべると目の前の自身の手によってボロボロになった男も頭から血を流しながらも手を広げて笑みを浮かべる狂気的な絵が写される。そして、虚は観客に聞こえるように念力で宣告する。
「おいおい?まだこの程度で盛り上がってんじゃねえぞ?俺はまだ全然楽しめねえぞ?」
虚の狂気的な声が強制的に聞こえた観客は嫌悪感剥き出しで顔を顰める。
さて、次はどうするか……?そうだな、そろそろ軽い肉体暴力は飽きた。食事……俺はする事が出来ないが少なくとも人間が幸せと思う瞬間だ。それを絶望に変えてやろう!虚は地面を食べ物に例えて齧り付くイメージをする。そして、もっと食いたいと思う。目の前の男は地面に貪り付くようにかぶり付き歯茎から血が出ようとも歯が欠けようともその行為を止める事は無い。
胃の中の内容物を吐いては地面に食らいつき吐いては食らいつき。それを繰り返した。もはや、この試合は狂気に満ちた何かを見せつけられている観客の一部では吐き気を催す者もいた。
おおっと危ない、危ない……これも失格になるのか?だが、まだ終わらせんよ?次は何をしようか?
俺の拷問ショーはこれからだ!虚はまだまだ余裕のある残り時間を尻目に自分が楽しむ方法を常に模索するのであった。
そして、勿論対戦相手の男は歯が殆ど欠けて歯茎から血を流しながらも嬉しそうな表情をして笑っていた。そして、会場の真ん中で向かい合っている二人はサイコパスの雰囲気を醸し出しながら笑い声をあげた。
「「さぁ!もっと俺を楽しませてくれたまえ!」」
己の意思と同一思考……そして誰も干渉させない己自身にもだ。 蕈 玄銘(くわたけくろな) @kulona3579
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