第6話 大会直前の虚

「あっ、この大会に参加する方々及び観客の方はこのバッチを付けてくださいね。試合の時は外してもらいますが……すみません、大会参加者に操作系の方がいらっしゃいまして……自分で制御できないみたいなので……」


 大会の受け付け嬢が既に虚の能力により考え事を受け付け前でしている観客とかに説明をしながらバッチを胸元に付けていく。これは虚の能力……同一意思を無効化するご都合主義アイテムだ。神をも従える同一意思だが、ここはこのアイテムを運営に用意して貰った。じゃないと虚の特性上負けてしまうからだ。観客に被害が及んでしまう。それだけは避けたい。虚はバッチを配っている受け付け嬢を横目に満足しながら大会会場近くの……とは言っても少し路地の裏には入るのだがそこの小さなカフェテリアに入店し、空いている席に座っている人間の姿を映し出す。するとそれに気がついた店員さんが声をかけてくる。勿論この店員さんもバッチを付けている。


「ご注文は?」


 店員が問いかけるが虚は勿論コップは持てないし、飲み物を飲む事も出来ない。


「いや、良いんだ。気分だけで」


 虚は少し寂しげな顔を映し出して言った。虚は座っている人間の姿の手のあたりにコーヒーカップを映し出し中身を飲む動作をした。勿論味なんか感じられる訳も無いのだが、虚は


「これで良いんだよ。俺は気分でしか味わえないのでな」


 と切なそうに言い、店員さんは理解の意を示して、去っていった。その時だった。


「!?」


 後ろでコップが割れる音がした。


「おい!俺様にこの程度の飲み物を出しやがるのか!?当然金なんかいらねぇよな?」

「おやめ下さい!」


 揉め事の様だ。今回の大会の観客と思われし人間と店員さんが揉めている。周りには大会参加者らしき人物はいない。逆にこの大会が始まると言う時にたった三十人もいない大会参加者がこんな路地裏の小さなカフェにいる方が珍しいだろう。その時だった。


「きゃあっ!」


 観客らしき人物が店員を殴る。虚は干渉出来ない上、何かを飲めもしないがせっかくカフェの気分を楽しんでいたのにそれを害され腹が立っていた。普段はカフェテリアに入るだけで同一意思が発動してしまう。それ故にカフェに入って接客をされる。この事が虚にとっては至高の時間だったのだ。


「おい、そこの者。やるなら外でやってくれないか?邪魔だ。気分を害する」


 虚は店員との間に割り込み言った。だが、現在この大会会場がある異世界にいる観客、大会参加者はバッチをつけているので虚の同一意思は効かない。


「ああ?なんだおっさん?死にてえのか?」


 観客らしき人物。いや、その長い呼び方はよそう。そこのハゲは虚に喧嘩を売る。現在虚は渋めな雰囲気を醸し出すおじさんの格好を投射している。


「そうか……」


 虚はそう言うと虚は姿を消した。


「あ?なんだ?消えたぞ?逃げたか?腰抜けが」


 ハゲはそう言う。だが、


「どこを見ているんだ?」

「なっ……」


 ハゲは後ろを振り向き一歩退く。そう、虚はハゲの背後に一瞬で移動し、鬼の様な形相。いや、巨大な鬼の姿を投射し、ハゲを見下ろしながら言った。


「去れ!俺は戦闘は好まん……そんなに戦闘がしたいならば何処か別の場所でするが良い!」


 虚は言った。だが


「ふ、そんな出まかせの幻惑で俺を脅しても無駄なんだよ!これでも俺は元いた世界では強かったんだ!」

「ほう?それなのに今回の大会には出場しなかったのか?それならお前の方が腰抜けだ」

「ち、違う!俺は今回の大会で大会の考察をして更に強くなる為に来たんだ!別に戦いに来たわけじゃねぇ!」


 虚は思った。このハゲの言ってる事は嘘では無い。虚は直接干渉は出来ないが今まで歴戦の相手をねじ伏せて来ているだけに実体は無くても中々の威圧感を放っている。それにも関わらずこのハゲは普通に話している。


「そうか……ならば尚更不祥事は起こさない方が良い」


 虚は最後の注意喚起をする。


「うるせぇ!……なっ!」


 当然ハゲは虚の言う事を聞かなかった。そして、ハゲが虚を攻撃するが当然通らない。


「当然だ。俺と戦いたかったらそのバッチを外せ。まぁ、外さずとも直ぐに念力で大会参加者か運営に伝える事が出来る。どちらにせよお前はお終いだ」


 虚は言った。運営にこの事を知らせればこの事は公になり直ぐにこいつは捕まりこの世界から出されるだろう。そして大会参加者に連絡すれば直ぐにその化け物じみた能力でこいつなんかを捕まえる事は簡単だろう。


「さぁ?どうする?」


 虚がハゲに声をかける。すると


「良いぜ!効果は知らねえがバッチを外してやるぜ!」


 そのハゲは虚の挑発に乗り、バッチを外した。その瞬間ハゲは主導権を虚に握られた。


「おい、店員……手錠を持って来い。」

「は、はい!ただいま!」


 店員は大急ぎで手錠を奥に取りに行く。


「持って来ました!」


 虚は自分の手を差し出す。するとそれに従ってハゲも手を差し出す。


「え?」


 店員さんが困惑するが虚は自分に手錠をかけて運営に連れて行く事を発言する事を考える。すると、


「俺に手錠をかけて運営に連れていけ!」


 ハゲは言った。店員さんは困惑しながら運営に連絡する。すると直ぐに運営の使いが来て た。


「ご苦労様です!」


 運営の使いがハゲを捕まえる。だが


「「俺も連れていけ」」


 ハゲと虚が同時に話す。運営の使いは頭に『?』を浮かべた後にエントリーシートを確認し、何かを察する。状況を理解したスタッフは虚を牢屋まで連れて行った。


「「このハゲを気絶させてバッチを付けろ」」


 その瞬間運営の使いが無抵抗のハゲを殴り気絶させバッチをつけた。


「俺の能力の効果があったら取り調べも出来んだろう」

「ご協力感謝します!」

「問題は無い」


 そう虚は言い瞬間移動でまた街に遊びに出かけた。


「はぁ……試合前くらい街で楽しませて欲しいものだ……」


 虚はポツリと呟きゲームセンターへと向かった。しかし、ゲームセンターに向かい、ゲームの台全てを同一意思で自分の思考通りに動かしてしまった事により、周りの人や店の主に怒られ店を後にした。


 尚その店は虚が出て行った後もゲーム台の動きがおかしいので色々試した挙句受け付け嬢が配っているバッチをゲーム台に付けたら元に戻ったのであった。


 コンピュータのプログラムも意思を持つと認識し操作する事もあり、虚は街で楽しめるのは雰囲気を楽しめる場所でしか楽しめないのである。勿論ゲーム台もコインを入れる事も出来ないので、虚が自分でコインが俺に入る。と考えた結果ゲーム台がコインを自分に入れられたと誤感知し、作動した事によりプレイ自体を行う事は可能であった。当然中のゲームシステムのプログラム自体も同一意思の影響を受ける為ゲームを虚が普通に楽しむ事はままならないのである。

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