第5話 虚の親友

 とある日の事だった。虚はまたいつもの様に自分を楽しませる相手を探していた。


「俺を楽しませてくれ……」


 とある世界へ虚は訪れた。そこでとある男と出会う。轟々と落雷が降り注ぎ、時空が歪みそこに居るだけで押し潰されてしまいそうな場所にそこに裸の厳つい男がいた。


「なんだ……お前は?」


 男が虚に話しかける。普通はその台詞は虚が言うべきセリフなのだが、それよりも虚は、


「なっ!?お前普通に話せるのか……!?」


 虚は感動したように仮想の実体の目を見開き、言った。そう、神さえも従える同一意思がその男には効いていないのだ。そしてその男は答えた。


「何を言っているんだお前は……?」


 どちらも会話が噛み合っていない。そう、これが虚と彼の最初の出会いだった。それは何処から見ても異常な光景である。まずこんな場所にるにも関わらず男は身体に傷一つ付いていないのだ。


「俺の同一意思は神をも従える強さの特性だ。それは無意識に常に発動する。俺はお前を認識している筈なのに何故普通に話せる?それが不思議でたまらないのだよ……」


 虚はその裸の男に自分の個性を話し、怪訝な顔で尋ねた。


「成る程な、そう言う事か。それなら俺には効かないぜ?何故なら俺の特性が老化と老化による死以外の全ての事象は俺には効かないってモンだからな……それが神で有ろうと俺には傷一つつけられやしねぇよ。歳を食わされたら死ぬがな。ははは」


 男は悲しそうに笑い、虚は歓喜した。初めて普通に話せる存在と出会った……それがとても嬉しかった。


「そうか、それなら俺と一緒に旅をしないか?俺と旅をすれば何もかもが思い通りだ」

「ほう?お前寂しいのか?別に俺は寿命以外では死なないから良いのだが、過酷な旅だぞ……?」


 男はそう言う、だが、


「問題ない、俺に全力で攻撃してみろ」


 虚は言った。当たり前である。今まで自分に対して物理的に傷を付ける事が出来た奴は一人とさえ居ないのだから。


「ほお?死んでも知らんぞ?はぁぁぁあ!」


 男は一瞬のうちに虚の後ろに回り込み貫手を繰り出す。


「なっ……!?何だこれは……?」


 男は自分の手が虚の身体をすり抜けた瞬間驚きの声をあげる。


 そう虚には干渉できないのだ。


「分かっただろ?俺は直接干渉する事は出来ない。この特性故に俺はまともに話しをしたのは神を含めてお前が初めてだ」


 虚は言った。男は少し悩んだが、笑顔で言った。


「分かった!お前と旅をしようじゃないか!」





 そして、虚は男と旅をする事になった、だが、長い年月が流れたある日の事だった。


「ぐっ……俺は寿命のようだ……楽しかったぜ……」


 男は寿命が来たようで床に倒れたまま、動かない。動くのは口だけで声は徐々に小さくなっていった。


「嘘だろ……俺には寿命は無いんだ……!またあのつまらない日々を俺に過ごせと言うのか?嫌だ!……そうだ!待ってろ!俺がお前に不老不死の力を付けられる奴をここに……!」


 虚が悲しそうな顔を映し出し言葉を言うのを遮る様に男は息を引き取る前にこう言った。


「まぁ、待てよ……無理だ。俺には不老不死は付けられない。老化以外の事象だ……延命は出来んのだ……そこでだ、お前に伝えたい事がある。永遠と言う物は存在しない……!以上だ……」


 男はそう言って息を引き取った。それから虚は自分を殺せる者を捜した。だが、見つからなかった。それから虚は強き者を捜し続ける様になった。虚は悲しい過去を抱えている。今回の大会ではルール上蘇生するので残念ながら死ぬ事は出来ないが、自分を殺せる者に出会えたならばトーナメントが終わった後で殺されに行こうと。又はこの虚の親友の男の様な者を求めるかだ。この男の言葉通り永遠の楽しみと言う物は存在しない。それを虚は知らない。ただ自分と一緒にいるだけ、永遠に遊べる輩がいるだけでも良いと思っている。その結末は誰にも分からない……そう、その結末はこのトーナメントにかかっているのだ。

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