転生者の残響

※天界の向こう側へと彼は少女の希望だったと同じ世界観です。




 俺は転生者だ。神の手違いという理不尽が降りかかり、前の世界では死んでしまったがお詫びに転生してくれることになった。

 この世界は小説のようなファンタジーな世界。天海と光海という海が中心的な世界で、知的好奇心を擽られる。

 元々異世界転移系の小説を読んでいたため、特に焦ることも無く、この世界を満喫し、謳歌していた。

 この世界に来て数年たった時、広場で自分と同じくらいの年齢の少年が大々的に何かを言っていた。「大人になったら天海の向こう側に行く」と言った。それは俺も知りたく、見てみたい領域でもあった。だから彼とは気が合うだろうと俺は、話しかけた。


「なぁ、俺も天海の向こう側が気になるんだ」

「おぉ!僕もだよ! 大人になったら一緒に行こう!」


 その少年に賛成した人は俺以外にも数人居て、その中には女の子も居た。どの子も目を輝かせていて好奇心は凄ないなーと他人事のように思った。

 小さな約束を交わし、別れる。ここから冒険譚が始まると思うとワクワクしてその日は寝れなかった。


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 成人年齢に到達し、ついに俺達の冒険譚が始まる。これがあとに伝説として語られ告げられるだろうな、なんて考えて笑みを零す。

 船に乗り、あの時の少年は立派に船長を務め、女の子はそんな彼は見つめていた。冒険譚に恋愛は付き物だなぁと微笑ましく、眺めていると視界の隅で黒いものが動いた。


 ここは天海だ。未知の領域だから何があってもおかしくないが、目の前の光景は不自然と言っていいものだった。黒いマントを来た人が強い波をものともせずに、歩いていたのだ。水中で歩くという表現も中々におかしいが、どこからどうてみてもそれはに値する。

 不自然過ぎる光景に顔を顰めていると目が合った。綺麗な青い目は俺を見て、微笑む。女か男か分からない中性的な顔立ち。口を開き何かを言っていた。水中ならば喋ることなど不可能なのに、その声は、言葉は、懸命に聞こえた。


 全身から血の気が引くをはっきりと認識する。背筋が凍り、冷たい汗が流れる。脳内は警告している、ここにいては行けないと。

 はすぐ訪れた。高波のような鎌が船を破壊する。乗員は皆、海へ投げ出される。それは俺も例外ではない。だが、他の人と違ったのは、息が出来て、普通に泳げるという事だ。


「ね? 言ったでしょ?」


 黒いマントに包まれた人は大鎌を片手に俺の前に現れた。禍々しく、けれど、どこか神秘的な存在。まるで死神のような冷酷さが伺える。


「たまに居るんだよねー、境界線を越えようとしてくる馬鹿が」


 辛辣な言葉とにっこりとした笑みが不自然すぎて脳内整理が追いつかず、呆然と死神を見上げる。


「お前は、何者だ?」


 絞り取れた言葉を発すると死神はケラケラと笑い出す。何がそんなに面白いのか分からない。人を殺しといて、なぜ笑うのかが分からない。理解不能だ。


「人からは、天死しにがみって呼ばれてるよ」


 天死しにがみは残酷な笑みを浮かべ、俺に手を差し出した。その手を握り返すと何かを失う気がして躊躇うと彼はにっこりと笑い俺を手を掴んだ。


「今日から君も天死しにがみだよ」


 天死しにがみに連行されながら後ろを振り返った。一生懸命にもがき、まだ生きたいと足掻いてる人がいた。彼は天海の向こう側に行くという夢を持った同士。

 誰かの名前を叫び、傷つく体に悲鳴を上げながら男を探していた。やはり彼女は彼が好きなようだ。


 一歩立場が違っただけで、もしかしたら俺もあんな風に死んでいたかもしれない。もし、俺があちらでこれが故意的に行われたと知ったら、……俺はこいつを許さない。いや、そうなってなくても俺はこの天死しにがみを許しはしないだろう。


 ──君は生き残るよ。天死しにみがみが発した声が脳内で残響する。

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さんざめく群青 淡雪こあめ @konukaame

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