彼は少女の希望だった
※天界の向こう側へと同じ世界観です
私は昔から出来の悪い子供だった。何をしても失敗ばかりで、両親にも近所の大人にも疎まれていた。
募りに募った何かが溢れ出し、その日は家を出て無我夢中に走ったのだ。道とは言えぬ道を走り、知らない人に声掛けられたりもしたけども、振り替えずに走った。息が上がり、疲れてその場に止まると、そこは知らない街だった。
見知らぬ街だが、私はとても清々しい気分だった。今なら何を言われても怒らない自身があった。
そんな清々しい気分で周りを見渡すと、1人の少年が高らかに、目を輝かせて何かを喋っていた。なんだろうと、耳をすませば「大人になったら天海の向こう側に行くんだ」と言っていた。馬鹿馬鹿しいというのが普通の感想だ。でも彼は穢れを知らぬ純粋そのもので、ここで彼を馬鹿にすればそれは私の大嫌いな親と同じだと思った。
そこからは行動が早かった。彼の元に行き、声をかける。
「それ私も一緒に行っていい?」
少年は喜びながら頷き、私に手を差し伸べた。彼の手を握り返し微笑んだ。私はこの時初めて、”私”という人を認められた気がした。失敗だらけで、何をしてもだめな私をそれでもいいんだと肯定してくれたように。
その日から私の最優先順位は彼になった。
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大人になった彼は一回り成長し、私の目から見ても良い男と見える。
落ち込んで居るところを励まし、時にからかい、平凡だけれど私にとってはかけがえのないもの宝物だった。
ついに彼の夢が実現する。私も船に乗り、的確な指示を出す彼を見て微笑んだ。何も心配することはなかった。彼ならば実現できると私は確信していた。
──うん、そう思っていたし、今もそう思ってる。海に投げたされても、私は彼なら出来ると。それはどうやら間違いだった。泣きながら、彼を探し、名を呼ぶ。もちろん、返事はない。水の流れが悪く、破損した船の残骸が勢いよく流れる。
好き、愛してる。一言でもそう言っておけば良かった。大切な人、最愛な人。貴方の為ならば私は、命を投げ出せた。貴方の夢を叶えさせてあげたかった。
あぁ……、いと、しいひと……、どこ、に……いるの、?
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