第6話:僕は異世界人


空が白み出す。


ブォオオォオ!


ジャイアントオークの攻撃は一晩中続けられ、村の結界は限界を迎えようとしていた。


ぴぎゃ ぴぎゃぴぎゃ ぴぴぎゃ


オークの周囲で、ゴブリン達が今か今かと村に攻め入るのを待っている。


「……」


それが確認できる森の中で、青年はワタルとスズネの安眠を守るべく、寝ずの番をしていた。


青年は昨夜のワタルとの会話を思い出す。


ワタルは2つの加護持ち。

酒神の加護『とどめ』、悪魔神の加護『異端』。

ワタルは悪魔神ルタンのことを隠したがっていたが、ルタンは主に商売神、魔術神で知られており、稀に先天的に奇形を持つ子供に悪魔神としての加護を渡すのだ。名前の響きこそあれど、偏見を持つ人はそういない。


ワタルはそれを打ち明けてくれた。

その上で解決策はないか尋ねてきたが、青年は『異誕』についての知識を教えるぐらいしかできなかった。


悪魔神が渡す加護の典型『異誕』。


奇形を抑え、また制御せさる。

鬼人化、魚人化、獣人化、超人化などを可能にする例もある。


知られているのはこれぐらいだ。


ワタルはそれを聞き、一晩だけ待ってくれと言ってきた。


「可能性の話だけど…

 『異端』すら使いこなせたら、あれを倒せるかもしれない」


そして精神統一が大事になるとか言って眠りについたわけがだ、寝て一晩経つだけで何が変わるんだと思いつつ、ワタルの意見に従ってみる。なんせ加護持ちの言うことだ。どんな奇跡を起こすか本人も知れないところが加護にはある。


「…それに君は、異世界人だから……」


昔話にも残る伝承通りの振る舞い。しかし、スズネに言われるまで、それに思い至らなかった。

青年の中では、すでに、だったのだ。


「うう、ん」


少女が身をよじり寝返りを打つ。

その隣にはワタルが行儀よく寝ていた。


この村には知人や親戚も多く、思い入れもある。

危険だろうと、世迷いごとだろうと、そこに少しでも可能性があれば、それにすがりたかった。


「せめて教会から、彼を守らねば」


結果がどうなるにせよ、彼の気持ちに、彼らに救われた部族の末裔としての義務に、応えたい。善き異世界人を、教会に兵器利用されたくはなかった。


「我らが神よ、試練に打ち勝つ意志はここにあります。どうか見守りください」


青年の祈りと共に、夜が明ける。


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