第3話:懐かしい香り
☆
「……」
懐かしい香りが鼻孔をくすぐる。
「―― 起きて。ほら起きて。ベットに戻りなさい」
ゆさゆさと揺り動かされ目が覚めた。
僕はゆっくりと
…え?
「寝ぼけてないで、自分の部屋に戻りなさい」
部屋の電気は消えており、暗いが、間違いない。間違えようがない。
その人物は、
か、母…さん?
最後に見た時より肌にハリのある母が、そこにいた。
「なんだ? 中学にもなってひとりで寝れないのか?」
横からいたずらっぽくそう話し掛けられる。
首を回してそちらを見ると、
「と、父、さん…」
僕に殴られ腫れ上がった顔を最後に、見ていなかった父の表情。
それが微笑んで、こちらを見ている。
「……」
ぽろぽろと、涙が
驚いた二人がどうしたのか話し掛けてくるが、言葉が詰まって、謝りたいことが多すぎて、何を言えばよいか、うまく話せない。
「ごべんよお!
ごべんよぅお! どうざん! があさん!
おで、いまばでふたりになんでごとを…!」
ようやくそれだけ言葉を吐き出せた。
悪魔神により記憶を掘り起こされた時、もし二人に会えたら、まず謝りたいと思っていたのだ。それが叶った。
しかしそんなことを言われても
「どうした、怖い夢でも見た…か……」
父が僕の肩を掴んで顔を上げさせる。
これは夢だろう
そうだ、夢に違いない
「お前どうしたこの体!?
母さん、渡のやつガリガリに痩せてるぞ!」
しかしこの空腹感が、飢えの苦しみが、これは現実だと嫌でも教えてくる。
こんな嬉しい苦痛は初めてだった。
「きゃああ!
どうしたの!? 何があってこんな!」
居間の電気を付けると、そこにはガリガリに痩せた僕の姿が。
しかし痩せこけた20代の体ではなく、僕は10代の若い頃に戻っていた。
「すぐに病院へ連れて行くぞ!
俺が車に運んでいくから、母さんは台所から飲み物や食い物を!」
二人は大慌てで動き出す。
「ありがどう…
ありがどうございばす……」
父さん…母さん…
「ありがどうございます…」
僕は父の背に背負われながら、
それは両親に対して。
そして死にかけていたクズに加護を与え、人生をやり直す機会をくれた神に対してであった。
「ありがとうございます」
父さん、母さん、…神さま
僕、変わるから
あんな未来、二度と、繰り返さないよ
僕は今日この日、クズだった自分を見直し、生まれ変わる決心をする。
腹には何もなく飢餓感で狂いそうだったが、胸には感謝と幸せが満ちていた。
ホント、気持ちじゃ腹は、膨れないんだな
そう思ったのを最後に、僕は意識を失った。
☆
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