四日目終了後

 実に広大な海。

 黒くも青く染まる地平線の先まで続く、濁った水に大地は存在していない。

 ただ一つこの島みたいな岩場を除いては。


「これは派手にやったわね」

「ご、ごめんなさい……」


 さすがにこればかりは反省の念が強いらしく、いつもエルティナに反抗するセリスが頭を下げていた。


「確かに、ここには生命の気配が一切感じられないな」

「うう、クロツグごめんなさい!こんなつもりじゃなかったのに……私のせいでみんな消えて……おまけにあなたも鬼神の能力を使って……」

「それは俺の独断的な判断によるものだ。それより……」


 トーナメントは当然のことごとく観客を傷つけた(殺した)おかげで失格負け。そして抱えられるようにしてエルティナに連れ帰られて、目覚めたところ、その足でセリスのいる場所までやってきていた。


 しかし、予想通りにそこは異常事態となっていた。

 いつもならブラックを抱きしめたりするはずの彼女が目の前で距離を開いており、これだけで十分異常事態でもあるのだが、何よりもの凄い死の臭いがしているのだ。

 だが、彼が何より気になったのはそれとは別の存在である。


「アルカエア様、あなたも来ていたんですね」


 エルティナに劣らない美貌と神々しさを持ち、比べるとしたら気品や優しそうなオーラが溢れ出ている女性。

 だが白い法衣を纏った神は、エルティナを強く睨み付けながら、半面ブラックを慈愛に満ちた目で見つめている。


「ええ。私だって鬼神に対抗するものでしてよ。故にセリスの鬼神の力を感じて即座にやってきたのですわ」

「そうですか」

「しかし残念なことに、私が来たときは力は発揮してでしたのですけど、セリスが私を見た瞬間、力を発揮の。どうやらやぶ蛇をつついたようですわ」


 ああ、そういえば姐さんは嫌いなんだったか。

 なるほど事態は理解した。

 もともと嫌いな神を急に目の前にして、おまけに鬼神との確執を持つセリスである、出会い頭に対抗意識が勝手に働いてしまったと。

 鬼神を止めるためにやってきた神が、鬼神を復活させてしまったと、なんとも救えないような話だ。


「ごめんなさい!クロツグ、私、こんな、ことで、ううっ」

「気にしないでくれ……」


 うずくまってスカートをじんわりと濡らしていく。

 この時どうすれば良いのかがあまりできないブラックは、ただ近くによって眺めるしかなかった。  


「もうクロツグは見限っちゃったわよね、私のこと。だってこの手で傷つけたようなものだもの、しかも二回目よ!」

「姐さん、顔を上げてくれ。そんなことはない、断じてだ」

「ほんとうに?」

「無論だ。俺たちは家族なんだ、その程度で見放す訳がないだろう。無事ならそれでいいんだ、どうせトーナメントも必ずやらなければならないという訳ではないからな」

「でも私自分勝手な理由で鬼神の力を使って、それで……」

「どうして使ったのかは後で聞く。どうせ姐さんのことだから俺に関わる何かをしていたんだろう、アルカエア様が来る来ないに関わらず」


 ブラックはそっと近づくと、セリスの手を取る。


からこそ、鬼神は寄り添うものなのだろう?だったらそれこそ運命共同体みたいなものだ。姐さんは俺の方を向いていれば良い」

「? ……う、うん。ありがとクロツグ!」


 ぎゅっとセリスが抱きついてくる。

 いつもと変わらないその強さに呼吸のつまりを感じながらも、どこか安心感を覚える。


(愛するの意味間違ってますわね、絶対に)

(もしかしてブラック、愛してる=二人で一つとでも思っているのかしら?確かに理論的にはあってるけど、意味として違うわね)


 二神の意味深な視線が刺さっているのに気がついていないのか、ブラックはセリスが抱きつく限り、抱きしめ返すようにそのぬくもりを感じていた。

 しかしそのぬくもりは思ったよりも早く、セリスから解放する。


「もういいのか?」

「ええ、いつまでもこうしていられないでしょ。やるべき事をやらなきゃ!クロツグを愛でるのを我慢するのは自分への罰よ」

「……そうか」


 それはいつもの明るい顔だった。

 切り替えの早さや責任感はさすがと見習うべきだろう。ともあれセリスの件については一段落だ。

 後は滅茶苦茶にした部分をどうにかして戻すのだが……


「アルカエア、被害はどれくらいだったの?多分前回よりはマシだとは思うけど」


 不意に聞かれたアルカエアだが、動じることなくセリスを優しい眼差しを掛けながら答える。もちろん逆は厳しく戻っているが。


一つずつが消失した程度で済みましたわ。なお、私の助けられる範囲で近くにいた人々は救いましたので、人の数以外特にはありませんわ」


 人がある程度救われていた以上、前回よりはマシだろう。

 死んだものは戻せないが、陸地を作り出すことは出来る。復興作業は神に任せれば良さそうだ。



 だがこれが思わぬ火種となってしまった。


「アルカエア、あなたゴミを拾っておいて、大陸世界を見捨てたの?馬鹿じゃない?」

「優先的に救うべきものを救っただけですわ。おかしいことではないでしょう?」

「昔から思うけど、あなたの優先順位、とことん間違ってるわ!おかげでここらが滅茶苦茶じゃない」

「あら、たかが大陸が消えた程度でしょう?だったらにも等しくてよ」

「はあ?価値無きものを救っておいて被害がない?大ありよ!人が絶滅しようが世界は守るべきものでしょう!」

「ふふ、可笑しなことを言いますのね。世界を滅ぼす根本的な原因を作ったのはあなたですのに。どのみち世界は滅びようが何度でも作れるものでしょう?」

「あなたこそ何言ってるのかしら?ゴミの量産ならいくらでも出来るでしょう?けど世界は量産できるものではないのよ」


「えっ、ちょっとエルティナ様?アルカエア様?」


 これはブラックも前から知る確執だった。

 エルティナは世界が好きだが、人を嫌う。

 アルカエアは人は好きだが、世界を嫌う。


 対極的な考えを持つこの神々は、鬼神に対しては同じ意思を持つものの、それ以外に関しては全く別の力と思考を持っているのだ。


「エルティナ、一旦この世界を壊してみたらすっきりするのではなくて?無論、人々は私が救っておきますわ」

「アルカエア、あなたこそ人々を滅ぼしてはどうかしら?世界は私が固定しておいてあげるから安心しなさい」

「落ち着いてください、お二方!」


 慌てることなく、真顔で間に入ろうとするも、もはや耳を貸さない。


「ふふふ」

「ははは」






















「戦争よ」

「戦争ね」


 ここに鬼神に及ばずとも、強大な力を持つ神々の衝突が起こった。




「やめろおおおおおおおおおおおおお!」




 ブラックはらしくもなく雄叫びを上げてそこに一人突っ込むのだった。

 ただし世界を守るためでも人を守るためでもない。

 聖賢者として、秩序と安定を保つためだ。

 それ以外に何でも無い。 


 ここにまた一人トーナメントから幕を下ろしたのだった。




~~救われた人々の中で~~


「あれ、さっきまでセリスさんと共にいたような……ってかここどこ?どこどこどこ? Where is this!」

「おい、うるせえぞ着ぐるみの奴」

「えっ、着ぐるみ? …………なんでキテ〇グマの格好になってんの?何?ポケ〇ンの宣伝でもやらされてるの?」

「うるせえっていってんだろお!」バコッ!

「うわあああっ!……ってあまり痛くない、ハッ!まさかもふもふのおかげ?」

「痛くないなら丁度良い!おらあ!こちとら変なところに飛ばされて気がいらだってんだよ!」ボコボコボコ

「もふーもふもふもふもふ」


※特性「もふもふ」…直接ダメージを半減する。しかし炎で受けるダメージは二倍!


「くそっ、こうなったら……」

 ガチャッ!

「汚物は消毒だー!」ぼぼぼぼぼぼ、ボオアッ(火炎放射器)

「ぎゃあああああああ、あづいいいいいいいい!死んじゃううううううううううううううううううう」



_________

これではキリが悪いので次話で終わると思います。それと、

m(_ _)m K様大変失礼いたしました m(_ _)m

それよりリ〇リエかわいい

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