4日目 第1試合 前編
準決勝、そこまで上り詰めた勝者は四人(?)
しかし、真の勝者となるにはあと二試合勝たなければならない。
トーナメント表を見る限り、二試合目のどちらが勝ち登っても決勝においてブラックの相手には取るに足りなさそうなので、ここが正念場となりそうだ。
「あまり言葉を交わす主義ではないのだがな、少し話をしようか」
そこには何故かもの凄い疲れた顔をしているブラックがいた。
観客を含め、何があったのだろうかと思ってしまうほどに。
しかしそれでも顔は至って真顔で、強い変化は感じられない。
「何が話したい?」
乗ってきたアザトにブラックは軽く首を縦に揺らす。
「ふむ、お前の過去、能力、その他全てを読み込んだのだが、中々に興味深い内容がはいっていたものでな」
「……」
アザトは警戒色を現してくる。当然だろう。人の記憶に踏み込んでいい顔をするものはいない。
「俺には感情がない。故に愛されていることまでは分かっても、愛することがどのようなことか分からない。そしてお前は姉に愛され、姉を愛しているようだな」
「ああ」
「俺にも血は繋がってないが姉がいる。そしてその姉は俺を異常なまでに愛している」
自分で言うのもなんだが、事実は変わらない。セリスは昔から平然とブラックを愛し続けている。
「だが聞きたいのはここからだ。お前は殺してと懇願されて、愛しているにも関わらず姉を殺したそうだな」
「そうだ。俺は、最愛の姉を殺した外道だ」
「そうか…………俺は愛を人の持つ感情面な本能の一つとして捉えている。けれど、お前の愛はよもや使命のようだ。勝手なまでの解釈で悪いが、お前にとっては愛とはどんな形をしているのだ? 中には殺しに生きがいを覚え究極の愛だと語るものもいるし、一つのものにこだわることが愛だと語るものもいる。人それぞれ故に知らぬ俺は攻めることはない、だからこそ知りたいものだ」
「それを知って何になる?」
「ただの知識欲、存在価値の追求、生命体における科学では証明しきれぬものへの憧れ。俺の数少ない嗜みだ」
聖賢者でありながら、研究者としての一面も持つ。顔はそれだけではないが、ブラックの持てる欲の中で一番大きいのは事実だ。
「俺は……」
アザトは少しだけ悩み込む。
隙がとてつもなく空いているが、そこを攻めるような性格はしていない。ブラックは答えを待った。
しかし、答えが返る前に事は起きた。
光が差す。強き光。
それはブラックが出したものでもアザトが出したものでもない。
瞬く間に焼けるような強烈な光は闘技場を飲み込み、そして繰り出した本人がブラックの目の前に現れる。
「なっ……!!」
「よかった、ブラックは無事ね。少々緊急事態よ」
焦りながら、それでも乱しはせずはっきりと言葉を繋げる。
その神々しさと美しさ、誰もが見とれるような神のような神を超える存在、エルティナだった。
彼女はブラックの肩を掴み、確かに意識はあると確認を行う。
そのあまりのことに、実況者も観客も相手もポカンと口を開けて呆けている。
「何が起きたんですか、エルティナ様」
「嘘じゃないわ、よく聞いて……セリスがまた鬼神の制御に失敗したわ」
「は?」
「やることは分かっているわね?」
それは予想だにしない最悪の勧告だった。
制御の失敗=鬼神の誕生そして世界の滅亡であるからだ。
何故使ったのかも理由が思い浮かばないが、取りあえずもの凄いまずい事態だ。
「どこにいるんですか?」
「教えたところで無理よ。前回の支障が残っているから、今の私にもあなたにもセリスを押さえつける力が足りないわ。だからこの世界ごとセリスを因果の彼方へ吹き飛ばす。その間あなたは先に脱出してアルカエアに援護を求めなさい」
「それは姐さんごとこの世界を見捨てろと?」
「そうよ」
堂々と放たれた言葉は、嘘か真か、聞くもの全てがそれぞれが困惑している。まるで冗談のように聞こえるが、当事者の二人のあまりの真面目さに誰もが嘘だとは言い張れなかった。
しかしブラックはすぐに首を横に振る。
「エルティナ様、それは出来ません」
「どうしてかしら?」
「世界はともかく、姐さんは俺の家族です。見捨てることなど愚の骨頂です」
「だとしてもどうするつもり?緊急事態過ぎて策がないわよ」
セリスの持つ鬼神の力は真っ正面から立ち向かうにはブラックの持つ鬼神の力でかろうじて止められるか否かだ。エルティナは身を守ることが出来ても鬼神に攻撃を与えることは出来ない。
「…………いや、一つ方法があります。少々手荒ですが、ここにはたくさんの強者がいますからね、この程度大丈夫でしょう」
「……聞かせて」
「この場から姐さんの意識を奪い取り、俺の持つ意識と交換させます。そうしたら後は俺を倒せば良いだけです」
「そしたらセリスは意識を失うけど、代わりにあなたの鬼神の力が発動するわよ」
「姐さんのよりはずいぶんと対処が楽なはずです。俺に宿るのはただの肉体だけですから」
「それは言えてるわね……おまけに劣らずの強者がいる、か」
エルティナは渋々だが少し考え込んで納得したようだった。
彼女もまたセリスを見捨てるようなことはあまりしたくないのだろう。
しかし、鬼神になれば観客に被害が及ぶのは避けられないので、この大会は敗北となることだろう。それでも、セリスを救う方が優先だ。
「分かったわ、準備しないさい。取りあえず鬼神の能力以外は縛れるから縛ってあげるわ。それと、そこのゴミクズみたいなもの」
ゴミクズと呼ばれたのはアザトだった。何ともひどい言いようだが、実際そう思っているらしいので仕方が無い。
彼はエルティナをまじまじと見つめる。
「な、なんだ?」
「聞いてたでしょ、全力でかかりなさい」
「あ、ああ」
アザトは強制か、頷く以外になかったのか、ぶんぶんと首を縦に振った。
審判は訳分からないというような顔をしてたが、試合続行という形でエルティナが強制的に納得させると、改めて試合が始まることとなった。
◇
そうして数分後、意識の交換が済んだ暁。
闘技場にはアザトと、鬼神に乗っ取られたブラックの姿がそこにはあった。
抜け落ちたような白い髪、目は赤く染まり、体は痩せ細った身から筋骨隆々と似ても似つかない容貌へと変わっている。手には禍々しいオーラを放つ七剣フィリアスを持ち、魔導服から頑丈そうな鎧へと替わっている。
そしてすでにブラックの自我を失っていた。
『こうして数年も経たずにまた再会できるとはな、エルティナ』
声が力となり、観客席が崩れ始める。
「感謝しなさい、できるだけ弱くして復活させてあげたわ。今の体なら本来の一万分の一の力も発揮できないんじゃないかしら?」
エルティナは闘技場の上に浮かんで、アザトに超絶強化する神の力を一時的に施している。そのため、鬼神の声程度では体は傷ついていない。
『確かに、だが、やることは一つ。全てを壊す』
鬼神が足踏みをする。すると、大地が割れ、観客席が二つに分かれ、地下何百キロとも言うクレバスが出来上がった。
「これ本当に倒せるのか?」
アザトがエルティナに問う。
「生き残りたければ、全力で倒しにかかりなさい。一応私の援護してるからすぐには死なないわ。でも一応世界を元に戻すために力を残しておくけれどね」
「負けたらどうなる?」
「ブラック……鬼神が暴れて世界が崩壊するだけ。後は力を失ったブラックとセリスを回収するだけね」
それはとても他人行事みたいな言い方だった。
まるで世界も人もどうでも良いような。まあ世界を戻すというあたり多少なりの責任感はあるようだが。
『話は終わったな、では行くぞ』
声だけでアザトの後ろの観客席が完全に瓦礫となった。
だが彼は意を決して目の前の相手に立ち向かうのであった。
_________
To be continue……
取りあえず最後なので大事に(笑)
鬼神の能力を新たに公開しました。
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