三日目終了後

 窓際。いや、部屋の隅っこ。

 立てられた電気スタンドを最後の盾に、目の前の人物と目を合わせる。

 未だトーナメントで無敗の彼がここまで追い詰められているのには理由があった。


「姐さん、さすがにそれは戦闘力が落ちます」


 動揺こそはしていないが、嫌であることを淡々と告げる。

 感情がないので、恐ろしさなど感じないはずだが、なぜか今だけは恐怖というものがほんのわずかに分かる気がする。


「ふふふ、別にこれで戦えっていってるわけじゃないのよ。今ここで服を脱いで着替えてくれれば良いの。もちろん、お姉ちゃんも手伝ってあ・げ・る・わ」


 ピンク。ふわふわ。もふもふ。

 顔の部分がくりぬかれ、頭には二つの長い耳。

 おまけに丸く可愛らしい尻尾つきと、ある動物を思い出させるような一張羅。


 どこから手に入れてきたのか、いや、大体憶測はついている。


 けど、一番の問題はそこでは無かった。


 見れば後ろ、ここまで追い詰められた原因でもある。


「ほら、いい加減おとなしくしなさいよ」

「ぬう、姐さんはともかく、なんでエルティナ様までいるんだ!?」


 その手には何か飲み物らしきものを持っている。

 黄色い見た目ではあるが、匂いからして乳製品だろう。

 いや、そんなことはどうでもいい!


「だってあのブラックが着ぐるみを着る瞬間よ。珍しいったらありゃしないし、直接見るに越したことは無いじゃない」

「……本当の目的は?」

「ないわよ。嘘も本当もね。だって、面白い光景を見るのに別の理由なんて必要ないでしょ?」

「やはり最低だ」


 ぐしゃり!


 手やベッドにこぼれるのも気にせず、エルティナは飲みかけの紙パックを潰す。


「大丈夫よ、クロツグ。エルティナと喧嘩しないから」

「いや、そういう意味じゃ」

「ブラック、そろそろ待たせるのも気に触ると思わないか?」

「いや、意味が分かりません」


 じりじりと歩み寄る二つの影、もはや逃げる手段など無かった。


「さあ、クロツグ!今すぐ裸になりなさい!ハァハァ!」

「これくらい苦しくもないことでしょ、やりなさい!」


「ニャメロン!来るな!」


 逃げるんだぁ、勝てるわけがないヨ。


 ここに新たなベ〇ータが生まれた瞬間だったw


_________

◇木林様との本当のラスト茶番◇


「あー、暗っ。やってらんないなあ」


 独房に一人うずくまる男。

 その近くにはモニターらしきものがあり、それをじっと見つめている。

 すると突然、体全体に一気に寒気が走る。


「寒っ、急に冷えてきて……って冷えすぎでしょ」


 だがいかにもお化け屋敷みたいな収容所に不幸は続く。

 電気が全部消え、モニターの画面さえノイズが走る。

 それだけでない、腐ったカップ麺は一気にカビが増殖して囲んだかと思うと、ドロドロとした液体に溶けた。

 ベッドは虫食いされたように破れていき、檻の金属もさびが付いて軽く触れただけで床に落ちてしまう。


 それはまるで怪奇現象、彼の周り以外が全て腐食、または消失しているかのようだった。


「なっ、なんだこれは!」


 叫んでみるも、他の独房にいる人は寝ているのか、いや警備員さえ何の反応もない。

 だが、彼は思った。今こそ脱獄のチャンスなのではないかと。

 恐る恐るもう一度折に触れると、今度はシュウウウと音を立てて粉となり消えていく。

 あまりの恐ろしさに身を引いて指を確かめるも何もない。

 そして安心したところで空いた穴から飛び出した。


「はあい」

「ぎゃああああああああ!でたあああああああああああ!すみませんすみません、申し訳ありません!別に悪いことするつもりなんか無かったんですうううう!許してくださいいいいいい!」

「うるさいわね。私をなんだと思っているのかしら?」


 えっ、と声を上げながら面を上げると、そこには約半日前に会ったばかりの女性がいた。


「セリス……様?」

「そうよ、木林。とてもみっともない姿ね、面白いわ」


 その表情は最後に見たときと打って違って気分が良さそうだ。

 ただし、それは顔面の半分で、もう反面は髪飾りが外れ、同じ笑顔であるのにその趣旨が違うような感じがする。


「あの、何しに来たんですか?Why?まさか殺しに?Killing me?」

「そうしたいのもあるけどね。でも今回はお礼よ。だからあなたを助けに来てあげただけよ」

「お礼?助け?何でわざわざそんななことを?」

「あなたのおかげで弟のかわいい姿が見れたのだもの、眼福よ眼福。だから私の気分が良いうちに少しだけ助けてあげようと思ったの」


 まさかとは思うが、ウサギの着ぐるみのことだろうか。

 いやそれしか考えられないが、ともかく確認しなければならないことがある。


「あの、ここの警備はどうやって?」


 すると彼女は笑顔ではなく、非常に詰まらなさそうな声で答える。


「ああ、あなた以外死んだわ。というより、私が髪飾り外しただけで消失しちゃっただけだけど」


 えっ、何言ってるんだこいつ……。

 急に全身の血の気が下がる。

 だが裏付けるように彼女以外の生命の気配はない。


「それはどういう?」

「はあ、あまり説明したくないのだけど、簡単に私の能力?といえば良いのかしら、持っているのは、自身と同族、あとは私が認めたもの以外の物質やエネルギーを問わず私自身のエネルギーにするものなの。まあ、要するに触れれば消えるし、近くに寄っても存在ごと消えるわ」

「何だそのブラックよりもチートな能力」

「良いからさっさと行くわよ。力使から、半径一キロメートルが消失しただけで済んでるけど、あまり長くいるとあなたも消えちゃうんだから。助けに来た意味がなくなっちゃうわ」

「ひええええええええええええ」


 すこすこと先進むように遠ざかっていく彼女の後を、木林は急いで追う。

 振り向けば、消失しかけていた牢屋が潰れてなくなり、床も水たまりのように溶け出していた。

 まるで地獄、そう思わずにはいられない。


 上機嫌で透き通るような女性の鼻歌と、追いかける男性の足音だけが、この静寂の夜に響くのだった。


_________

館「許可は貰ったとはいえ、何でこうなっちゃったんだろうw」

館「おかしい!おかしいぞ!あっ、続きますw」

 

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