一日目終了後

「当たり前だけど、まずは一勝おめでとう」


 抱きつかれる。頭をなでられる。押し倒される。

 無抵抗なままにブラックはセリスに愛を押しつけられていた。


 現在、姐さん以外の知る人物はこの世界にはいないので、誰かが間に割り込んでくれることも、ブラックを助けてくれることもない。

 まあ抵抗すれば良いだけの話なのだが。


「とはいえ、初っぱなから使うつもりのない力まで使ってしまった。これは今後の戦いにおいて相手に一つのアドバンテージを与えたのと同時に、俺の持てる技に対して対策を与える時間を与えたことになる。一回戦でこうなるとは望ましい展開ではないだろうな」

「うふふ、だとしてもあなたはいくつだっけ、数十万?それくらいの魔法習得してるじゃない。いくらでも手の打ちようはあると思うわよ」

「確かに。俺はありとあらゆる魔法も力も詰め込まれてきた。おまけに人外規格な能力も持っていることも自負している。けれども、その力をいきなり使うことになったんだ、今後も同じくらい、いやそれ以上の相手がいると思ってもおかしくはないだろう」


 運命のパラドックスさえ発動はしなかったが、手厳しい戦いであったことには間違いない。

 油断は禁物、一勝したからと言ってうかうかとする気分には到底なれなかった。


 なにせ多くてあと四試合あるのだ。エルティナが玩具を見つけるまで少なくとも戦いは続くし、負けることは意にそぐわない。もしかしたらすでに利用価値のある道具を見つけた上でブラックに戦わせているのかもしれない。

 つまりはこの先がブラックには予想不可能だった。確定した未来など存在しないが、この先にこういった戦いが続くと思うと、面倒極まりない話である。


「ふふ、大丈夫よ。クロツグは強いもの。いざとなったら鬼神の力でも使えば良いわ」

「それだけは洒落にならない。姐さん、あなたが鬼神になっただけで都市をまるごと一つ消し飛ばしたの忘れてないよな?」

「ええもちろん、人も霊も何もいなくなっちゃったわよね。でもあればクロツグを怪我させたせい、ただの結果に過ぎないわ。もちろん今回もそのつもりだけど」

「世界が滅んだ理由、俺が怪我したせいとか一番ダメなパターンだぞ」


 どうやら今回も聞き分けがあまりないらしい。

 とにかくこの世界を消し飛ばさないように、勝ち続けるか、鬼神の力だけは使わない様にしなければならない。

 もはやエルティナ関係なく負けられないが、意識を集中すべきなのは対戦相手なのだと気がついたのは寝る前であった。


(ダリア・サリエル。そういえば完全統制制御を使ったときに観客席にいたようなきがするな)


 数万人、もしくはそれ以上の人の情報を頭にしまい込んだのでよく思い出せないが、まあ情報整理すればどんな能力を持っているか思い出せるだろう。

 ブラックは次の対戦相手の確認だけをすると、セリスに奪われた二つのベッド(多分一緒に寝るための算段)から一つ毛布を取り上げて、床に寝っ転がった。

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