人という価値無き者
「ねえ、ブラック」
いつも通り誰を始末したかの定期報告をするブラックに彼女は少し変わった口調で話しかける。
「突然どうされました、エルティナ様」
こちらはといえば、敬ってはいないが上にいる立場のものであるので、適当に丁寧になって話しかける。
「少し面白そうな話を付けたのだけれど聞く気にならない?」
「ロクでもなさそうなので断ります」
「面白くないのね」
「あなたがそのような感情を消したのでしょう?」
ブラックにとって現在の彼女はすでに信用に当たらない神である。もちろんそれは数年前に起きた事件と関わりがあるが、それでも契約という束縛のせいで彼女との関わり合いは切れない。
しかし理由はそれだけでない。彼女と契約を無くしてしまえば、ブラックはいざというときの歯止めを掛けられる人物がいなくなってしまう。それは身体の中に埋め込まれた『鬼神』そのものが暴れてしまったときだ。
またエルティナにとってもブラックとの縁を切り捨てるのは、鬼神の復活を高めることになるので、最もやりたくないことである。なにせこれほどまでに鬼神の力に耐えられる器を持つ人物は、永遠とも思われる彼女の人生の中でも初めてであるのだ。
さてそんなことはともあれ、エルティナはおかしくなって笑う。大げさな声を立てるものではなく、口元を押さえる程度の隠す笑い方だ。
きっとブラックに一本返されたのが腹に来たのだろう。
「でも話を聞いてそんは無いと思うわよ」
「確かに、話を聞く程度なら無害であるでしょうね」
ブラックの身近には声を出すだけで相手を切り裂く人物がいるが、それを除けばの話となる。やろうと思えば彼女なら簡単にできるだろうが、やる気が無いのが彼女の特徴だ。
彼女は一息つくと勝手に語り出す。
「掴んだ話によれば、なにもいろんな世界から集まってきた強者達が戦うらしいのよ」
世界といえば、普通の人なら自分の住んでいる星だけのことを考える。しかし、彼女の刺すその世界とは、いや彼にとってはそれが、異世界や平行世界とも繋がっている考えた。
「物騒な話ですね。秩序と安定が乱れるからそいつらを始末してこいということでしょうか?」
「あら、今回は別よ。本当にただの力比べ、各人の能力同士で争うだけの闘技場みたいなものよ」
「あなたが言うとどうにも裏があるようにしか聞こえないのですが。それと俺が参戦する意味なんてあるのですか」
ブラックは感情がないために、行動に理由を求め、原理を知りたがる。
今回の場合、エルティナが珍しく意味の無いことをしゃべり出すので、余計に何かあるのではと感くぐってしまう。
「そうね、意味は存在しないと思うわ。けれど人が発生するのは自然的な原理、抜けられない命運の道、その中で多様な人物が現れるのもまた自然の一足。人とは歩くときに踏みつけるゴミと同じ存在だけど、その中でもごく稀にブラックのように輝く宝石ってあるものでしょ?」
「俺が輝く宝石かどうかは置いておいて、監視対象として危険そうな人物を探すということですか?」
「半分ね。だってブラックほど危険な兵器もいないじゃない」
つまり満点中の半分の点数らしい。
彼女は自分を危険な兵器と言うが、彼女にとって俺やいくつかの存在を除いて、ほとんどの命ある存在は見る価値もないゴミに等しい。
「ではその半分とは?」
「もしもの時のために、鬼神の力に耐えられるほどの器を持った人を探すのよ」
つまり将来鬼神の力に犯されて死ぬ未来が確定してしまう、『身代わり』というやつだ。
ブラックには収まっているが、普通の人だとまず鬼神を受け入れられるほどの器を持っていない。少しでも触れば存在ごと消えて亡くなってしまうほどに。
だから一年でも一ヶ月だけでも、鬼神を埋め込むことの出来る存在をエルティナは永遠のような毎日に探してきた。これもきっとその一環の作業なのだろう。
つまりブラックが戦うことに意味があるのではなく、ブラックと戦っているうちに身代わりを探そうという算段らしい。
「俺要らないんじゃないですか?そのまま捕まえれば良いんですし」
「そうね、捕まえるのは簡単だけど、戦わないと兵器として扱って良いのかゴミとしてゴミ箱に入れといていいのか分からないじゃない」
ゴミ箱とは面白い表現だ。その箱は中身を捨てさえしなければそのままゴミをキープできるのだから。
「つまり行けと」
「私が送ってあげるから、準備だけしなさい。ブラックが殺すのも生かすのも自由だけど、指示したゴミだけは蹴飛ばさないようにね」
ブラックにすでに拒否権はないらしい。
「了解しました。力の制限は解きますか?」
「あの程度力の解放は必要ないわよ、力の制限をつけままで十分。どうせ本気で戦いに行くわけじゃないんだし」
「では明日までには準備を整えるので、行くときはお知らせください」
かくしてブラックは参戦することを決意したのだった。
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