第10話 天神様の言う通り

――天神様は、こうおっしゃった。


「私のすべき事は全て終えた。これから私は元の場所へと戻る、だが直ぐに帰ってくる。しかし、その時にはこれまでの事は全て忘れ、みすぼらしい格好をして現れる。皆のもの、私の化身をどうか大切にしておくれ。そして、私の化身が『こんな所にいたくない』と言ったなら、こう、伝えておくれ、鳥居の前でこの呪文を唱える様にと」


 こわい ながらも とおりゃんせ とおりゃんせ


 天神様は、しばらくはお住まいの整頓などをしておられたが、そのうち、ぷっつりとお姿が見えなくなってしまった。不安になった村人達は、総出で村中を探し回ったところ、ついに村外れの橋の下で天神様を見つけた。そのお姿は以前の気品高い雰囲気をすっかりとなくされ、その辺りに住み着いていたコジキどもと見分けが付かなかった。そして、仰った様にこれまでの事は全て忘れてしまわれていて、まるで、本当のコジキにしか思われなかった。

 それでも村人達はいなくなる前の天神様が仰ったように、コジキの姿をされた天神様を神社にお連れし、身綺麗に整えて面倒を見た。初めは山のタヌキの様に嫌がって暴れていたコジキの天神様も、いつしかすっかり気を良くされ、一緒にいたコジキ達も自分と同じ様に扱いなされと仰り、村人達は渋々十数人のコジキ達の面倒を見る事になった。


 その翌年、村に日照りの飢饉が起こった。雨の降らない日々は作物を枯らし、村人は働かないコジキ達に不満を持つ様になり、天神様に詰め寄る者も現れた。

 天神様なら雨を降らして村を救ってくれるはずじゃ、何もせずに食べてばかりの天神様などいらんと、これまでの天神様からのご恩を忘れ、無理やりかんかん照りの太陽の下に引きずり出した。コジキの天神様は、しょうがなく雨乞いを始めたが、二日経っても三日経っても雨が降る様子はなく、遂にコジキの天神様は、こう言われた。


「もう、こんな所にはいたくない」



「これって……異世界へ行くキーワードは通りゃんせの歌詞に隠されているのね……一番の歌詞はきっと、戻るための呪文……だから、異世界へ行ける人はほとんどいない……そして、二番の歌詞が、異世界へ行くための呪文……知っている人だけが異世界へ行ける……朔夜が指さして教えてくれた、あのページなのね」


 こわい ねのとき うしのとき あのよいき


*つづく*

~二万字で終了~

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とおりゃんせ異世界 通りゃんせの二番の歌詞が異世界への扉を開く 柳佐 凪 @YanagisaNagi

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