第9話 ファンタジーとは夢の世界じゃない

「風待……一体、どう言う事? 三行で説明しなさい」


「何の?

 誰の?

 なにが?」


「説明になってない!」


「もっと具体的に質問しろよ、でも、とりあえずコッチの質問から先にさせてくれ。炎堂はどうやって逃げ出したんだ? 朔夜と一緒にいたのはなぜだ? いきなり俺の上に落ちてきたのはなぜなんだ?」


「は? 私は捕まっていないから逃げていない。

 朔夜は友達だから一緒にいる。

 落ちてきたのは、神社の鳥居で穴に落ちたから。どうだ、三行説明さんぎょうせつめい


「トリー? お前、トリーのワームホールを使って逃げられたんだな? なるほど! よかった……。いや、待てよ……トリーを使えば異世界へ移動してしまう……そして、戻る時には元の場所へ戻されるはずだ。やっぱり矛盾があるぞ」


「あんた、ナニ言ってんの? 全く意味わかんないんだけど……って異世界? 風待、あんた異世界の事を知っているの? なぜ……というか、そもそも、本当に異世界はあるの?」


「炎堂……。投獄中に随分辛い目にあったんだな……。わかる、わかるぞ、一般常識すらまともに覚えていないんだな……辛かったろう……さあ、僕の胸でお泣き――いてぇ! 何すんだ!?」


「どさくさに紛れて抱きつこうとするからだよ! それに、私は投獄なんかされていないし! 毎日学校へ通ってます!」


「……そうか、わかったぞ、矛盾が解決した。お前、アクロッサーだな? 異世界からこの世界へ来たんだろ?」


「アクロッサー? 何それ?」


「なるほど……やはりな。じゃあ、本物の炎堂は、異世界へ行ったんだな……。おい、お前の世界はどんなところだ? 命の危険はあるか?」


「私の世界? 命の危険? そんな訳ないじゃない。 危険どころか、平和も平和……もしかしたら退屈で死ぬかもね」


「退屈……なんと、それじゃ、お前は、俺たちが捜し求めていた理想の世界から来たのか!? さすが炎堂……。俺たちが、どれだけ異世界へ行っても見つけられなかった世界を、向こうから呼び寄せるなんて! なあ、お前! 退屈か? 本当に退屈か? いーなー……早く行きたいな……。俺たちの……パラダイス!」


「段々察してきたわよ……風待……あんた異世界の人間なのね、そしてここが異世界、私はこの世界では投獄されていて、私と入れ替わりで、今、神社の境内にいるのがこの世界の私……そして、ここは危険な世界ってことね?」


「ジンジャー? しょうががどうした?」


「サムっ ジンジャーじゃなくって、神社よ! あんたこの世界でもサムイわ!」


「じんじゃ? 神社なんてこの世界にはないぞ? 何を言ってんだ?」


「ええ? 神社が無い? じゃあ、やっぱり私、帰れないの? 朔夜……どうしよう」


「朔夜も一緒に入れ替わったのか……それは厄介だな……。朔夜はお前の世界で炎堂を殺しに行くぞ。この世界を牛耳っている異能力者組織の幹部だからな。そして、俺達はそれに抵抗して分裂したレジスタンスグループ……と言っても十人足らずしかいないんだが……」


「そんなファンタジーみたいな事……信じられない」


「信じようが信じまいが、それが現実だ。ファンタジーってのは夢の世界なんかじゃない。俺達に突きつけられた現実だ」


「……とにかく、朔夜を助けなきゃ」


「助けるのは朔夜じゃなくて炎堂だぞ。朔夜はこの世界では最も安全なところにいるはずだ。最強組織の中央部だからな。そして、事の成り行きを話すかもしれない。炎堂と二人で異世界から来たという事を。おそらく本部は大騒ぎだ。レジスタンスの最右翼である、炎堂が監獄から忽然と消えたんだからな」


「最右翼って?」


「お前はこの世界ではトップクラスの異能力者だ。ファイアスターターの中ではおそらくお前にかなうやつはいないだろう。そして、俺は風を操る……あんまり役には立たないけどな……要は組織の最大の敵が自由の身になった……という事になる。お前の世界では、朔夜が炎堂を殺しに来るし、この世界では組織が炎堂を殺しに来る……楽じゃないぜ、あいつらの相手は……それより、早くお前の世界へ連れていけ! 俺たちは待っていたんだ! 退屈なパラダイスへの切符を持っているのはお前だけだ!」


「帰るってどうやって……鳥居もないし、朔夜もいない……それに、私が戻れば、この世界の私はまた投獄されるんでしょう? 今度こそ殺されちゃうんじゃない? 私を見殺しにして、あんただけ助かろうっていうの? あんまりむしがよくない?」


「じゃあ、どうしたらいいって言うんだ?」


「わからない……わからないけれど……そうだ、『風土記』の中に答えがある! 朔夜がそう言っていたわ」




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