第8話 ずいぶん違う異世界
今夜も天神様の境内には朔夜が先に到着していた。大毅お兄ちゃんには異世界に行くとことづけて来たが、何となく、今日も白壁の抜け穴を通って来た。
「さあ、行きましょう」
「朔夜……これ、いつまで続けるの? 朔夜の目指す世界は一体どんなところなの? もう教えてくれてもいいんじゃない?」
「……まだよ」
「段々ね……この世界への影響が大きくなって行くの……異世界から来た私が、ちょっとずつ何かを残していく……今は大した影響じゃないけれど、いつか、とんでもないものを招いてしまうかもしれないわ、もうちょっと……そう、二人で話し合ってからにしない?」
答えを聞く前に、二人はもう穴の中だった。不意打ちを喰らった私は、また、お尻を強打した。だけど、今日はそんなに痛くない。
「痛ってーーーー! 突然何だ!? お前らどけ! その重たい尻をどけやがれ!」
「風待! なにしてるの? そんな所で……」
「だから、二人とも、俺の背中から降りろって!」
「ごめんごめん」
「炎堂……お前、炎堂か! 良かった! ずっと会いたかった!」
「ええー! ちょっと何すんのよ! いきなり抱きつくなーーー!」
「だって、お前、俺がどんだけ心配したか……」
「もう、わけわかんないよ、ちょっと、朔夜もなんか言ってよ!」
「朔夜……朔夜も一緒なのか……なぜ……」
風待は朔夜を見ると驚いて私達から離れた。いつものあっけらかんとした風待は、そこにいなかった、まるで、親の仇を見る様に朔夜を睨みつけている。
「一体どうしたの風待……それに、その格好……まるでSFね、スターウォーズの真似事? プラスチックの鎧なんか着て……って言うか、この街並み……まるで映画のロケ地……」
やっと、事の重大さに気がついた。ここは、異世界なんだ、これまで来た事のある、ちょっとだけ違う世界なんかじゃない。本当にSFな異世界に到着してしまったんだ……そして、重大な事はそれじゃない、ここにはあるべきはずのものがない……そう、鳥居がない、神社もない、あるのは瓦礫と砂ぼこり……一体どう言う事だろう、ここはどこなんだろう?
「ない……ここは神社じゃないの? 一体どこ?」
「神社? 何だそれ?」
私と朔夜は顔を見合わせた、これまで、神社の鳥居から世界を行き来して来たのだ、鳥居がないと言う事は……。
「帰れない……」
朔夜がそうつぶやいた時、けたたましくサイレンが鳴り響いた。
「ヤバイ! 行くぞ!」
「ちょっと、引っ張らないで! 朔夜は? 朔夜がまだ……」
「何やってんだ! 朔夜は敵なんだ! 早くここから離れないと……ダメだ、もう来ちまったか……隠れるぞ!」
コンクリートの壁が崩れたビルの隙間に滑り込んで、風待は私の頭を押さえつけた。
「痛いよ! バカ! 朔夜がまだ……」
ボロボロの壁の隙間から朔夜の方を見ると、そこには空飛ぶメカメカしい乗り物の様なものが、朔夜を連れ去って行く所だった。
「朔夜――」
風待の手を振りほどいて、朔夜が連れさられた方向へ駆け出した。瓦礫と砂で道路かどうかもわからない道の真ん中で立ち尽くすしかなかった。もう、何も見えない、あの乗り物は、あっという間に消え去ってしまった。私は、まるで、怪獣が暴れて回ったあとの様に、街中が壊れてしまった道の真ん中で、身体中の力が抜けて、ガックリと膝をついた。
手をついて握った砂にまみれて、朔夜のお落し物があった。
「風土記……」
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