第4話 奥西圀誌一・ルムド誌

※以下URL七圀地図

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 次に奥西圀Worubarsht、西戎の国々について申し上げます。

 内津圀Xwanirah bumのアーハンルード河の下流の西から、カフバルフの白き峰々が奥西圀Worubarshtの南側を貫き、その西の果てまで続いているそうです。その長さは300frasangに及ぶそうです。先ずカフバルフの北側にルムド、その先にダンダルヤという大河が流れ、大きな平原が広がっております。その河の北側から奥西圀Worubarshtの北奥まで深い森が広がっているそうです。カフバルフの南側にはラシュナグの国になります。

 奥西圀Worubarshtの風土はカフバルフの山並みを境に様々です。カフバルフの北側は湿った風、南側には乾いた風が吹き付けます。北麓のルムド平原は、夏は蒸し暑いですが、冬には大雪に見舞われます。カフバルフに積った雪は、春夏には数多の川となってに沃野を潤します。ダンダルヤ平原は、夏穏やかですが冬は厳しく、数多の湖沼が点在しております。土地は肥沃ですが人は疎らです。その北奥には森が果てしなく広がる寒冷地Serdistanであります。カフバルフ南麓のラシュナグの地は、夏は暑く乾いておりますが、冬は穏やかで湿っております。


 ルムドは奥西圀Worubarshtの東端に在り、東と南と西をカフバルフに囲まれ、北は黒海Dryay Syaカラ・デンギズに臨んでおります。カフバルフを挟んで東にはドシャスタル、南にはニャムド、西はラスナに接しております。北側のカフバルフと黒海Dryay Syaの間の狭い土地を超えると、ダンダルヤ平原が広がっております。風土は内津圀Xwanirah bumの北岸ドブルジュバルと似ております。ドブルジュバルは背後に山が迫る狭く細長い所でありますが、ルムドは肥沃な平原が広がっております。南北15frasang、東西30frasang程になります。

 カフバルフから流れ出でる無数の川は七つの河と交わり、豊かな森、草高き牧地、肥えた田畑を育んでおります。ルムドという国の名は、ルムド語の「Lumi」に由来し、特に東端のルミィーズ川に因むようであります。


 アーハンルード河とルミィーズルード川の間には越すに越されぬ難所バチャクシュバルがあり、そこが内津圀Xwanirah bum奥西圀Worubarshtの北の境になります。バチャクシュバルは、カフバルフの断崖絶壁が黒海Dryay Syaに迫る、狭い砂浜でございます。バチャクシュバルを行き来する旅人は、波間を見計らって狭い砂浜を駆け抜けねばならず、大波が来ると、人も馬も波に呑まれて流されてしまうこともあります。昔、夫に会いに狭い砂浜を旅する母と子供がおりました。しかし子供は大波に浚われてしまったそうです。それを悲しんだ人々から「不知子浜Bachakushbar」と呼ばれる様になったそうです。バチャクシュバルの断崖の所々に大波を避けられる洞穴がございます。そこには波に呑まれた子供の御霊が祀られており、行き来する人々は供え物を捧げます。

 東よりルミィーズルード川、チャルペルード川、ヘルシェムルード川はどれも急流で、海と山の間の平野は狭くドブルジュバルに好く似た所でございます。ルミィ―ルルード川は大きな平野を流れ、下流にはマヒグバンドの港町がございます。人口一万、兵にえうる者三千程で、住民の大半ルムド人ですが、アルヤナーグとラシュナ人も残りの半々を占めております。ルミィ―ル川沿いにはカフバルフを越えカパウタークを通ってマイダルの都アムガルに至る街道が走っております。

 ルムドの平野の中央には最も大きなペレンディルード河が流れており、その中ほどに最も大きな都城ザルカンドが立っております。嘗てはアルドゥクシャフルの太守Shasabの治るところでございました。今はラシュナグのアルスディヴ の残党ラルス・ラヨマンドが王を僭称して治る所でございます。人口五万、兵にえうる者一万三千程で、住民はラシュナ人とルムド人が半々でございます。ペレンディルード河沿いにはカフバルフを越えカニャムドの都バウビーシュに至る街道が走っております。

 シャングトルード川とシギュトルード川の間の平原の大きな丘には、ブレギャットの城市ががございます。人口一万五千、兵にえうる者六千程で、住民はラシュナ人とルムド人が半々でございます。このブレグジュトからシグジェテ川を北に渡れば、ダンダルヤ平原に達し、シギュトルード川沿いにカフバルフ山深く街道が走り、クリムデレ峠を越えればラシュナグ国に至ります。

 

 ルムドの元々の住民は平野に住むルムトールとカフバルフの山々に住むブレグトールに分かれます。どちらも似たような言葉を話すが習俗が異なります。

 ルムトール達は、豊かなルムドの平原で、米・小麦・大麦・稗・粟・砂糖黍・豆類・綿花、梨・葡萄・林檎・柑橘類などの様々な果物を育てます。また城市では商人・職人として住まいます。都市のルムトールやルムトールの土豪Dahigan達はアルヤナグたちと似たような着物を着、Shalwarを履きます。農村のルムトール達はShalwarを履かず、ブレグトール達と似たような着物を着ます。

 ブレグトール達は部族氏族ごとに分かれ、カフバルフ山麓の牧場で牛や羊・馬などを飼ったり、山奥の谷間にて小麦・大麦・稗・粟・豆類・果物などを植えて生業としております。内津圀Xwanirah bumの山の民たちと似ております。ダンダルヤ平原やカフバルフ南麓に住まう民たちは皆、ブレグトール達と同じ様な言葉と習俗であります。


 古の世、天命Yarliq光輪Xwarrahが未だシャンドゥ―にあった頃、ルムドはルムトールの王が納めておりました。その頃、奥東圀Worujarshtでトゥルクズの蒼狼Kök Böreキョク・カァンが十六人の息子Tiginたちと共にエルゲネコンより出で、ウトュケンにElを立てました。その盛んなることを恐れたサグザナグの衆たちは、逃れてクルムクシュの故地を襲いました。サグザナグに敗れたクリムクシュ達は、ドブルジュバルの地を通ってカパウタークの地に住み着き、トゥワンスパルを王に立てました。これを敵と見做したシャンドゥ―の王はトゥワンスパルを討って殺しました。トゥワンスパルの子ドグダミールは生き残ったクルムクシュの衆を率いてルムドの国を逃れました。ルムドに入ったドグダミールは王を殺して国を奪ったと謂われております。別の話では、すでにルムドの王は死んでおり、妃或いは姫が国を治めておりましたが、逃れて来たドグダミールと夫婦となって新たな国を立てたとも謂われております。

 その後ドグダミールが卒してドグダミールの子アルディッカルが王になりました。アルディッカルはカフバルスを越えてラスシュナグの諸国を攻めて服属させました。その後アルディッカルが卒してアルディッカルの子サダターフシュが王になりました。この時はマニュグシュドがマイダルの王となったアルダクシャフル元年に当たります。サダターフシュが王の時、サグザナグがカパウタークに現れ、これと戦い退けたそうです。二十年、サダターフシュが卒してサダターフシュの子アルハターフシュが王を継ぎ、アーハンルード河を越えました。三十五年から三十九年の間、アルハターフシュはマニュグシュド王に戦いましたが、遂に和睦してアーハンルード河を国境としました。六十五年、アルハターフシュが卒してアルハターフシュの子クルムシュガルが王を継ぎました。

 四十年にマニュグシュド王が崩じ、マニュグシュドの三子アーラシュが継ぐも、シャンドゥ―のカイ・ダハーグに唆されたマニュグシュドの長子サルザルドに弑逆され、王位を簒奪されました。そしてマイダルとアルダクシャフルは大いに乱れておりました。七十五年、アーラシュの子クルジュナーシュパ王がサルザルドを討ち、天命Yarliq光輪Xwarrahを得ますと僅かの間に国威盛んとなり、父の仇であり国の敵であるシャンドゥ―のカイ・ダハーグを攻め滅ぼさんとしておりました。

 七十八年、アルダクシャフルが盛んになることを恐れ、クルムシュガルはクルジュナーシュパ戦いを挑みました。しかし、忽ちクルムシュガルは敗けて捕らわれの身となり、ルムド国は滅んでアルダクシャフルの分国Dahyuとなりました。クルムシュガルは助命されてクルジュナーシュパ王の侍臣Vaspuhraganに取り立てられました。この時クルムシュガルの一族パラーシュパはアルダクシャフルに従うことを嫌い、部衆を率いてシギュトルード川を渡り、ダンダルヤ平原に逃れたそうです。その子孫が悪名高き邪王アルスディヴと謂われております。


 分国Dahyuとなったルムドには将軍Spahbadアルパグが太守Shasabとして遣わされ、奥西圀Worubarsht諸々を安んじる鎮守府将軍Marzbanも兼ねました。後にクルジュナーシュパの子ダルヤーブが王に立つと、Ardに基づいてDadを定め、全分国Visa Dehyuの戸口を数え貢税を課しました。ルムドは戸口五十万、銀500biltuをアルドゥクシャフルに納めたそうにございます。

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