第2話 東陲圀誌・日出圀誌

※以下URL七圀地図

https://pbs.twimg.com/media/DHA-CupUQAEWYWC.jpg:large


 次に東陲圀Arzah日出圀Fradadafsh、東南夷の国々について申し上げます。


 高天峰Terag Halから東と北の間に向かってアルトゥン・ダグの山並み、南に向かってシュミルガルの峰々が伸びております。アルトゥン・ダグの南に東陲圀Arzah、シュミルガルの東方に日出圀Fradadafshがあります。東陲圀Arzah日出圀Fradadafshの間にも深く険しい山々が聳え、二つの圀を隔てているそうです。アルトゥンとシュミルの彼方は何時でも東の大弘原海Volkashより強い風が吹き付け、重い雲を運び、大地に雨を齎すので、とても湿っております。大地には途轍もなく大きな河が流れ、樹木が鬱蒼と生い茂っているそうです。重い雲を運ぶ強い風は、決してアルトゥンとシュミルを超えることができません。その為、奥東圀Worujarsht内津圀Xwanirah bumは常に乾いているのです。


 東陲圀Arzahは、暑い夏と穏やかな冬、雨が好く降り、アルトゥンの山並みから、大河が流れ、網の目の様に川が入り組み、冬でも枯れない木々で覆われているそうです。彼の地の者たちは、Tonguzを好むのでトングーズと呼ばれ、見た目はトゥルクズに似ておりが、言葉は全く異なります。その言葉は鳥が囀る様で、文字も様々な鳥の絵の様です。東陲圀Arzahから齎される穴の開いた銅貨の文様が、その文字であり、王の名が刻まれているそうです。彼の地では、稲・麦・粟・稗・豆が植えられ、牛・豚・鶏を多く飼われておりますが、馬は少ないそうです。金銀は少ないですが、銅は多く、銅で剣や銭を作り、高値の物は絹を以て売り買いするそうです。内津圀Xwanirah bumに齎せれる絹は全て東陲圀Arzah産であります。王侯は勿論のこと、少し豊かな庶民まで絹の服を着、貧しい者は麻布を着ます。 

 東陲圀Arzahは百を超える城市Shahrが有り、そのほとんどはミャーム国に属しております。百の城市、万乗の戦車、百万の帯甲を持つ大国であり、その富強は内津圀Xwanirah bumのアルドゥクシャフルに匹敵します。嘗て東陲圀Arzahは百の国々が相争っておりましたが、ミャーム国が覇を握ってから、アルトゥンの険しい山並みに守られ、大いに治まり安らかに過ごしておりました。

 ミャームの城市Shahrは皆大きく、中でも国都ルングクは、ニャムドの首邑バウビーシュを凌ぎ、凡そ七圀一繁栄しているそうです。ルングクは、河と河が合流する水溜りが広大な湖となり、その中にある周囲10frasang程の島に在ります。その島に南北1frasangの高い城壁を二重に築いているそうです。数多の船舟が輻輳して東陲圀Arzah中の穀物・財貨・商品が集まっており、城壁の内外には十万軒もの家々が並んでいるそうです。

 カイ・ダルヤーブ・アルダバナーンの御世の頃、奥東圀Worujarshtの東奥にて遊牧するアルダグのカンバル・ヤブグーは、豊かな地を求めてアルトゥンの越え難きを越えました。これに対してミャームの王は千乗の戦車と十万の歩兵からなる大軍勢を遣わして迎え撃ちました。この時はじめて、トングーズたちは馬の背にまたがる騎士の姿を満たそうです。兵力こそ多かったものの、トングーズたちは騎乗を知らず、鉄の刃も知らず、武器はみな青銅や石で出来ていたそうです。これに対しカンバル・ヤブグーの強者達の数こそ萬に満ちませんが、各々が鉄の剣や矛、青銅の斧、強弓を持ち、みな馬に跨っておりました。

 戦が始まるや、瞬く間にミャームの軍勢はアルダグの馬蹄の下に踏みにじられ敗走したそうです。カンバル・ヤブグーは、敗走する敵を追って、ミャームの国都ルングクにまで迫ったそうです。しかし、東陲圀Arzahの蒸し暑さに、馬も兵も倒れたのでアルトゥン南麓にまで引き返しました。その後連年アルダクは戦っては勝ち、ミャームの諸邑から奪いましたが、ルングクを攻め切るまでには至りませんでした。

 遂に両者は和を結び、アルダクはアルトゥンの南麓と東陲圀Arzahの北一角に国を立て、ミャームから莫大な貢納を得ることとなりました。絹・麻・銅貨・穀物・酒・家畜・奴隷・宝物などの値打ちは銀にして1,000biltuに及んだそうです。カンバル・ヤブグーは、それら財貨をベグや民に下げ渡すとともに、内津圀Xwanirah bumの金銀細工・ガラス・綿布・絨毯・葡萄酒、奥東圀Worujarshtの馬・羊・毛皮等を買い集めて東陲圀Arzahで売り捌き、莫大な富を得ました。

 カンバル・ヤブグーから数代経た後、アルダグ国のヤブグーやベグと民質は、ミャームの絹を纏い、アルザフの美酒に酔い、トゥルクズからトングーズの様になってしまいました。一方ミャームは鉄を鋳て鍛える技を編み出すようになりました。ただトゥルクズやアルヤナグの様に馬に乗る俗を頑なに嫌っているそうです。


 引き続いて日出圀Fradadafshついて申し上げます。

 彼の地は、常に厳しい暑さに見舞われ、夏から秋にかけて長きに亘って雨が降り続いて少しは暑さが和らぎます。内津圀Xwanirah bum日出圀Fradadafshを隔てるシュミルガルの峰々は七圀一高く険しく、誰も超えたことがありません。アルトゥンの越すに越え難き山々、シュミルは越すに越されぬ峰々であります。かの魔王アルスディヴは内津圀Xwanirah bumアルヤンウェズを全て切り従えた後、越すに越されぬシュミルの峰々を大軍勢と共に越え、日出圀Fradadafsh東陲圀Arzahを平らげるつもりであったそうです。

 そのような由により、シュミルガルを越えた日出圀Fradadafshの内陸奥地のことは、東陲圀Arzahよりも、内津圀Xwanirah bumに近いにも関わらず、全くわかっておりません。まるで大弘原海Volkashに浮かぶ蜃気楼の様な圀処Kishwarでございます。ただ日出圀Fradadafshの沿岸の事しかわかっておりません。

 日出圀Fradadafshの内陸奥地パラシュミルの中央には、象河Pil Dryaという大きな河が南北に流れ、その水量は我々が知るベフシュ河やナフル河を遥かに凌ぎます。河の名が示す通り、彼の地並びに日出圀Fradadafshの民の殆どが象を自在に操り、戦や物運びに使います。象河Pil Dryaの河口部は大きな湾を成し、内津圀Xwanirah bumの端の椰棗海岸Mughbarとの境になっております。湾より北のパラシュミル、湾の対岸の香蕉海岸Mozbar日出圀Fradadafshの地となります。

 象河Pil Dryaの大きな湾口の奥には、バルバリグの港町があります。椰棗海岸Mughbar沿いから移り住んだチャンダル人の治める所になります。バルバリグは、象河Pil Dryaを通じてパラミシュル奥地と外海との行き来を独り占めにしております。パラミシュルでは紅玉や青玉が採れ、その全てがバルバリグに集められます。そしてバルバリグを通じて椰棗海岸Mughbarの山並みを越え、内津圀Xwanirah bumに齎されます。パラシュミルのことが解らない事の由は、バルバリグのチャンダル人が隠しているからでしょう。

 香蕉海岸Mozbarを南に下ると、シャガルティーブの国があります。香蕉海岸Mozbarからシャガルティーブにかけての住民は浅黒人Dabragであります。やや小柄ですが腕脚は長く好い姿をしております。米・黍・稗・粟・豆類・綿花・檳榔、胡椒・小豆蒄等の香辛料を産します。家畜は牛・水牛・鶏・家鴨を飼います。またシャガルティーブでは真珠・黒檀・紫檀なども産します。

 彼の地は至るおころ柚木や椰木の森林に覆われ、それらの木々を材木にし、紐で縫い合わせて瀝青で隙間を塞いで船を造ります。シャガルティーブの先には数多も島々からなる香木海Dryay Chandalが広がっております。商人たちは船に乗って香木海Dryay Chandalの島々から、沈香・白檀などの香木、丁子・桂皮などの香辛料、珊瑚などをシャガルティーブに集めます。シャガルティーブは海の民ですが、ラシュナグたちとは違い、善教Veh Dinを尊び、他国の民を弑せず危めず穏やかに取引を行います。


 ここまでが東陲圀Arzah日出圀Fradadafsh、東南夷の国々の話でございます。

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