最終話 強い思いの先に
Dr.Jを拷問していたであろう仁志を、僕は睨みつける。
誰が悪で、誰の願いが叶えば世界が危険になるのか分からない。もう僕には分からない。ただ、目の前で起きてる事に、今起こってる事を整理して考えれば良い。
「おやおや……なんで来たんだね、君は」
そして、僕を見てDr.Jはそう言ってくる。
「……その言い方、やっぱり僕を平行世界に飛ばして逃がそうと思っていたんだね」
「分かっていたならなんで……」
分からないかなぁ……。
「僕にとって、幼なじみの3人と過ごすいつもの日常は、本当に幸せなものだった。それが分かるとね、離れるのは辛くなるよ」
例えその思いが、この世界を壊すんだとしてもね。
だけどね、やっぱりダメだよ。僕はあの3人と一緒に居たいんだよ。
するとその僕の言葉の後に、仁志が拍手をしてくる。ムカつくな、その反応。
「いやいや、素晴らしいご高説をありがとう。それならば、その幼なじみとやらの為なら、君は何でもするかね?」
「はぁ? どうせ人質に取ってるとか、そういう類のものでしょう?」
「さて、どうかね……おい、三山君」
すると、僕がさっき蹴り飛ばした人がゆっくりと立ち上がる。あぁ、さっきの人は病院で会った隊長と呼ばれていた人か。また蹴っちゃったよ。
「あ~2度も蹴られるとは思わなかったですよ。しかし、また良いタイミングで戻ってきましたね~」
しかもこの人は確か……大輔達の隊長……つまり……。
「さて、それでは君の言うその大切な人達と……戦って貰おうか!」
「悪いね、これも正義の為。この世界に新たな世界を上書きしようとする、創造主の決定を覆す為に、私達の世界の二の舞にならないために……その創造主の力を得た君には、死んで貰うよ!」
それって、エデン・ワールドの事かな? なるほど、それであなた達はこっちに逃げてきた。でも、こっちの世界も同じようになっているから、元を何とかするしかないと、そう考えたんだね。
だけど、その方法がこっちの世界の同位体との交代なら、それは僕達にとっては良い迷惑だよ!
すると、僕のいるその部屋の扉が開き、そこから大輔と花音が、あの詰め襟の制服を着ながら立っていた。
もちろん、僕の姿を見て泣きそうになっている。でも、今は泣くわけにはいかないのか、ぐっと堪えてそれぞれ構えを取る。
「無事だったか……進。まぁ、お前は絶対に帰ってくるとは思っていたよ」
「でも悲しいね、こうやって戦わないといけないなんて……」
だけどそう言ってくる2人は、あまり苦痛の表情を浮かべていなかった。あぁ、そうか……僕がエデン・ワールドに行ってる間に、心忍が動いてくれたんだね。
だから、僕もゆっくりと構えを取る。
「うん、良いよ。来なよ……」
「へっ、分かったよ……それなら、遠慮なく……!!」
そして大輔は腰を低くし、僕に向かって飛びかかるような体勢を取った。でも、大輔はそのまま僕には飛びかからず、その手に持った大剣を、横に立っていた仁志に叩きつけました。大剣の腹とはいえ、痛そうですね。
「なっ……かはっ……何故?」
「調べは付いてんだよ。あんたらの元で、ちまちまと情報を抜き取らせて貰い、ようやくあんたらのやろうとしている事が分かったよ。心忍!」
すると、大輔達の後ろの扉から心忍が現れ、仁志を睨……みつける前に僕を見て泣きそうになって、そして顔を赤くしてそのまま目を逸らしました。
皆泣き虫だなぁ……と思ったけれど、最後の心忍の反応はちょっと違いましたね。なんでかは分かるけれど。
「……世界を守るとか呆れる。ただ自分達のいた世界を、私達の世界に上書きしようとしていただけ! その証拠を見つけた」
「なっ……そのパソコンは!」
そして、いつも通りの口調で話す心忍が差し出したのは、普通のノートパソコン。でも、それを見た仁志が慌てている。どうやら、何か重要なデータが入っているようですね。
「これを世界中に発信したら、どうなるだろうね」
「なっ……止め! それだけは……!!」
「仁志……もう終わりだ。こんなガキ共に計画潰される訳にはいかねぇ、殺すぞ!」
「おっと……それは僕がさせません。アイテール・グラビティ!!」
危ない危ない……三山が超人的なスピードで僕達に向かってきたから、思わずその創造主の力を使って、重力を造りだしました。
いくら逃れようとも無限に広がるこの重力の前では、どんな奴も無力だよ。
「ぐがっ!! バカなぁ!!」
「うぐっ……これが創造主の力、素晴らしい……が、恐ろしい。その力が世界に向けられれば、いったいどれ程の……」
「いや、これ1回こっきりなんですけど」
『……なに?』
あっ、2人とも目を丸くしてる。意外だったの?
「いや、普通そうでしょう。こんな強力な力を、人間がぽんぽんと使えるわけないでしょう。レンタルみたいなものですよ!」
つまり、ここで使ったからもう終了です。はい、僕が世界を上書きするほどの力を使うのは、もうなくなりましたよ。それと、お迎えが来てますよ。
「全くもう……ほら、これでもう僕を狙う必要はなくなったでしょう? それに、お迎えも来ましたよ。リリン、アンナ、向こうで宜しくね」
「分かったわ……それにしても、なにこの呆気なさは……」
「はぁ、全く……タイミングがジャスト過ぎるのよね」
そして僕は、自分が飛び込んだ窓の先を見てそう言います。そこには、リリンとアンナが到着してたからね。ついでに、空からはまたあの大きな手が何本も……。
つまり、あの大きな歪み『修正』はまだ終わってなかった。こっちに来たエデン・ワールドの住人も連れて帰って、ようやく修正完了なんです。
その為の押さえる役として、僕が選ばれただけなんでよね。
「ふっ……やれやれ、やっと向こうの世界に帰れるのか」
それを見たDr.Jは、空を見上げながらそう言います。
「まぁ、中々良い働きをしてくれた。無理やり引き込んでしまい悪かったな」
「謝罪しているように思いませんが?」
「くくっ、そりゃぁな……まだ、こっちの世界は危機を脱してねぇからな。お前の革命は、始まったばかりだろう?」
そうですね……確かに、まだ終わってはいないみたいなんです。でも今はとにかく、歪んだこの世界を直さないといけないよね。
そして、重力に囚われて動けない三山と仁志は、必死に暴れながら叫んでる。
「や、止めろ……まだ何も成せていない、それなのにこの仕打ちはなんだ……止めろ、抗わせろ!」
「くっ……そがぁ!! 世界を救うとかどうでも良い、暴れさせろぉぉお!!」
三山はダメですね。あれはどうやら改造されちゃってるようです。
それにしても、2人も名前はこんなんじゃないでしょう。今となってはどうでも良いけど。だって、もうその2人は大きな手に包まれ、握られたと思ったら消えましたからね。
僕もあんな風にして帰ってきたのか……。
「さて……それじゃあ私達も帰ろっか、お姉ちゃん」
「全く、記憶無くすとか何やってるのよ……」
「あはは、こっちに飛ばされた時にちょっとね~」
そして、リリンとアンナもそう言いながら窓から離れていく。ちょっと待って、まだそんなにお別れをしてない!
「歩美……いや、進だっけ?」
「あなたがどっちの性で生きていくか気になるけれど、今の私達が言えるのはこれだけよ」
『またね』
そう言いながら、2人も大きな手に掴まれて消えました。
またね? また……こっちに来る気なの? そんなの、無理なんじゃ……と思いたいけれど、あの2人は案外それをしちゃいそうで恐いですね。でも、もう聞こえないだろうけれど、僕もこう返します。
「またね……」
そして、その後心配そうにする3人の幼なじみを見て、満面の笑みでこう言います。
「ただいま!」
いつものとはいかないけれど、それでもまたあの日々に戻れる。僕はそれだけで幸せです。
魔法少女になってしまった僕の受難 yukke @yukke412
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