第4話 対立
目の前に立ち塞がる2人は、余裕で僕に勝てると思っている。そうじゃないと、こんな表情は取らないよね。周りが見えていない、勝ち誇った表情をね。
「……もう1人の私、アンナお姉ちゃん……会った事はないのに記憶が」
そして僕の後ろでは、エデン・ワールドにいたリリンが頭を抱えていました。だいぶキツそうですね。でもその前に……。
「そう言えば、こっちでの名前は?」
僕はエデン・ワールドにいたリリンに向かってそう言います。
「
「そう、里香。君はこの世界に親がいるよね? それを探しに行っても良いけれど……」
「……あなたと3ヶ月過ごして、情が湧かないわけないでしょ? 戦うわよ、私も」
そう言いながら里香は立ち上がり、その手を光らせてくる。良かった、こっちに戻っても魔法は使えるみたいだ。つまり、体内に魔法を使う物質が残っているんだね。
「ふ~ん、ずいぶんと自信のついた顔付きになったね」
すると、リリンがそれを見て不敵な笑みを浮かべながらそう言ってくる。でも、それを見て恐いとは思わない。全然平気だ。
「そう言えば土屋さんは?」
「逃げたわ」
早い……なんか後ろにいる人が1人足りないな~と思ったら、もう逃げたの?! 何体かドールを抱えていたのに、良く逃げられたね。
「ちょっと、私達を前に少し余裕過ぎない?」
「おっと……グラビティ・フォース」
「ぐっ……!!」
「ほいっ……と」
「あぐっ!」
僕がちょっと周りの確認をしていたら、アンナが僕の直ぐ近くまで迫っていて、重力物質で作った剣で突き刺そうとしてきた。
それを見た僕は、重力の波動でアンナを突き放し、ある程度の距離まで後退ったのを確認したところで、彼女の首元に回し蹴りを放ちました。
「油断しているのはどっちだろうね」
僕の攻撃に完全に対処出来てない所を見ると、重力で離されるのは予測出来ていても、まさか蹴られるとは思っていなかったんでしょう。
僕を強者と見ていればこんな事にはならないよね。完全に舐めてる。
「グラビティ・マター≪ミトゥム≫!!」
「なっ?!」
「嘘っ?!」
だから僕は、重力物質で装飾の施された大きなハンマーを作り出すと、それで2人を叩き潰します。
2人とも凄く驚いた顔をしていたけれど、手応え的には防がれてるね。
「全く……なんでこんなに戦えるようになってるのよ!」
「そりゃぁ、向こうでそれなりに特訓していましたよ。ほら、次行くよ! ≪ゲイアッサル≫!」
僕のハンマーを、リリンがぬいぐるみ達に指示して支えさせ、その間にブツブツ言ってるアンナが攻撃ですか。連携悪くないけれど、その攻撃ごと吹き飛ばすのが、僕の強くなった重力魔法なんだよね。
「えっ? ちょっ! 私の重力物質が! キャァァア!!」
アンナの武器は全く意味をなさず、僕の重力物質で作った槍で壊れて、彼女ごと吹き飛ばしました。障壁張ってたから、貫くことは出来ない。それは分かってやったけどね。
「くっ……想像以上に強い……あぁ、もう!」
すると、リリンが天使の白い翼を背中に出現させて広げると、そのまま空に舞い上がる。
逃げる気? 逃がさないよ、リリン。君もアンナも危険だ。
「歩美! 私が浮かせるから、あなたは飛ぶイメージをして!」
「分かった」
そして里香がそう言った後、僕に向かって手をかざし、僕を浮かせてきました。だから僕は、彼女の言うとおりにして飛ぶイメージを頭に浮かべます。すると、体が前方に進んでいきます。
「このまま追いかけよう。こっちの世界がどうなってるのか……」
「……あまり変わってない。でも……」
「……えっ、なんで分かるの?」
分かる……全部分かる。リリンとアンナが何をしたのか、大輔、花音、心忍がどう動いたか、Dr.Jの居場所……政府の魔法少女機関。仁志官房長官の企み……全部、全部分かる! 僕の頭に映像として流れ込んでくる!
「仁志……あいつ。あいつか……!」
「えっ……ちょっ?!」
僕の言葉に慌てたリリンは、突然向きを変えて僕の方に向かってくる。でもごめん……全部分かっちゃった。高い所に上がったからか、この世界の出来事が手に取るように分かるんだ。
これが、創造主の力……。
なんで僕がそれを受け取れたかは分からない。分からないよ……。
でも、今は関係ない。僕の大切なものを奪った奴等は、絶対に許さない。
例え、この国を敵に回してもね!!
「待ちなさい! 歩美!!」
「ごめん、リリン……君がやろうとした事も分かったよ……殺気向けてごめん」
「分かってるなら行かないで! 政府の、仁志の目的はあなたなのよ!!」
「うん……Dr.Jも、僕を逃がすために苦肉の策に出たって感じだね。仁志はどういう訳か、僕と会った時には既に、僕が創造主の力を受け取れると分かったみたいだね」
リリンを通り過ぎ、そのまま魔法少女機関に行こうとした僕の前に、彼女が慌てて飛んで来た。
「はぁ、はぁ……お姉ちゃんと協力して、なんとかあなたをあの世界に留めさせようと思ったけれど、まさかあんな大きな歪みが来るとは思わなかったわ」
「……本当にそうなのかな? アンナは、僕の力を欲しがって――」
「政府に取られるくらいなら、私が使ってやろうと思ったのよ。私の世界を復活させるために。でも、今回の歪みで修正がなされて……もうあの世界は……」
あぁ、そっか。なんとか僕は戻れたけれど、今回は修正をされた。平行世界に飛ばされた人達の修正を。つまり、もう向こうの世界は崩壊を待つだけになっている。その崩壊を止めるのは、この力を使っても、もう無理みたいだね。
「だから僕を助けるの? アンナ」
「癪だけどね。だから、そのまま魔法少女機関に行って貰ったら困……」
だけど、僕はその場から瞬時に移動して、2人からはかなり離れた所まで行きました。ここなら追いかけられないね。
「ちょっと……!」
「歩美!」
「2人の気持ちはありがたいよ。でもね……僕は行かなくちゃいけない」
すると、その僕の言葉を聞いた後にリリンとアンナが同時に叫びます。
『幼なじみ3人と戦う事になっても?!』
「望むところだよ。僕達の絆は、敵対するくらいじゃ壊れない」
でも、僕は直ぐにそう返す。
3人を取り返すためなら、僕は悪にでも何にでもなってやる。この世界に戻るまでは、リリンをアンナから守ろうとか、3人を色んなものから守らないとと思っていたけれど、その全てを台無しにされて、奪われたのなら……もう後は戦って奪い取るしかないんだよね。
そして……。
「僕は革命を起こす。先ずは食い尽くされた政府を壊してやる」
そう言うと、僕はそのまま魔法少女機関に向かって飛んでいく。1度きっかけがあれば、もう後は里香の力を使わなくても、僕の重力魔法で簡単に空を飛べる。
飛ぶ感覚が掴めなかったから飛べなかったけれど、これなら次は飛べる。
そのまま、僕はスピードを上げる。ここはちょっと離れている。僕の住む街の県境の山だったよ。
でも、今の僕なら……ほんの数分だ。
そして、目の前に見えた魔法少女機関の2階の窓、その先に佇む人物に向かって、僕は突撃する。ついでにもう1人、そして良く知った人物もいるね。だから、僕は思い切り窓ガラスを蹴り割って、近くに立っていた人物を蹴り飛ばします。
「――――っ!!」
「なっ!!」
「おや……君は」
そして僕が飛び込んだ直後、それに驚く声と、ただ静かに僕の登場に対応する声が聞こえます。ただ残念ながら、静かに声を出した方が、仁志官房長官ですね。
驚いたのは……。
「Dr.J……何捕まってるんですか? それとも、元仲間同士だから腹を割って話そうって事ですか?」
Dr.Jの方なんだよね。しかも、僕の言葉を聞いて更に目を見開いています。あなたがそんな驚いた顔をするなんてね。
「ほぉ、これはこれは……君の方からご足労頂けるとは。しかも、この感覚。そうですか、やっぱり……」
突然現れた僕を見た後、仁志官房長官は何とも言えない表情を取ります。嬉しいのか感動しているのか、興奮を押さえているような感じですね。
だけど、僕はただお仕置きするだけです。
「さ~て、悪の魔法少女ミュアーが来たからには、そう簡単にハッピーエンドにはならないよ! 正義のヒーローさん!」
「そうですか……では正義のヒーローらしく、正義の魔法少女達と共に、ハッピーエンドとさせて頂きますね」
正義とか悪とかもう関係ないけどね。Dr.Jの様子を見て、Dr.Jを殴りまくっていたのが分かる。
僕の居場所を突き止めるために、Dr.Jを拷問していたんだ。だから、もうどっちが悪でどっちが正義とか関係ない。
自分の信念を貫き通した方の勝ちなんです!
そう決意した僕は、重力魔法の物質で、白い翼と黒い翼の生えた大きな杖を作り、それを握り締めて仁志官房長官を睨みつけました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます