第3話 語り手は起承転結を望まない
最初の数年は、物語のようにつつがなく過ぎていたのだという。
さほど若くはないものの堂々とした風格の皇太子と、若く美しい皇太子妃。
お互いに愛しあっていて、その愛の結晶──
ほかの
やがて皇太子は皇帝として即位し、皇太子妃は皇后として立てられる。
ここで話が終わっていれば、読んでいてぜんぜん
けれどもこれは物語ではなく、人生だ。人生がきりのいいところで終わってくれたためしなど、雯凰は寡聞にして知らない。
とはいえ仮に古今の諸事に通じる大賢人がいたとしても、そんな例を知る者は少ないだろう。
「物語はいつも面白みがない大団円。その面白みのなさは、物語ではなく人生にこそ必要だというのに」
歌うように言葉を紡いだ雯凰に、夫は苦笑する。
「物語について、ずいぶんと知識の偏りが見受けられるね。けれど後半の意見については、同感だ」
つまらない人生上等、それってめんどうくさくないっていうこと。
夫はそんなことをうそぶく。
実際世の中、わずらわしいことが多すぎる。
これに前向きに立ち向かえる人間っているのかしら。いるのかもね。
わたくしの大好きなあの人だったら……ついつい思いを遠くに馳せる雯凰の鼻を、今度は夫が軽くつねる。
「……わたくしの鼻は、これ以上高くなる必要はなくってよ」
そう言って、夫の手をぴしゃりと
「これは失礼。でも君、今好きな人のことを考えてたでしょう。私は自分の好きな人のことを考えずに、君の話に付き合っているのに、それは失礼ってものじゃあないかな」
「……そうね、悪いことをしたわ」
素直に謝る雯凰に、夫は「よろしい」と笑い、話の続きを促した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます