真桂
第1話 和やかな茶会にて
うららかな日差しの下、若い娘三人と茶を喫する。
自分が男だったらとても楽しいのだろうかと
男だったら、夜中に三人を
小玉は内省しつつ、茶を一口含んだ。
三人の娘――
ついさっきまでは、紅燕の宮で出された新作の点心のことだったが、今は真桂の実家から取りよせられた新しい茶葉のことで話を弾ませている。
小玉はときおり相づちを打つだけで、ほとんど話についていけていない。
けれどついてはいけなくても、くるくると変わる表情のように変わる話題は、横で聞いていてけっこう楽しいものだ。
「……そういえば
またくるり、と話が変わる。
いきなり問いかけたのは紅燕だった。
茶杯を卓に置きかけていた小玉はおや、と一瞬手を止めた。
唐突な話題転換であったが、確かにそうだと思った。
紅燕は小玉にもよくわかっている事情で入宮したし、雅媛は雅媛で
しかし真桂については、詳しい話を小玉も知らない。
「珍しくもない事情ですわ」
真桂は事もなげに答える。
父が持ってきた話だと言う彼女の事情は、間違いなく珍しくないものだ。
「けれどもあなたが、諾々と言いつけに従うだなんて」
紅燕の「あなたが」という言葉は、正式には「あなた(みたいないい性格をした娘)が」という意味を持つ。
小玉は正しい意味を聞きとってしまった。
真桂もしっかり聞きとっているに違いない。どこか挑発的に返す。
「ただでさえ娘が父に逆らうだなんてもってのほかですのに、それも未婚の時に……そんな不孝なことございませんわ」
「おっしゃるとおりですわ」
やや苦笑を
「けれども、その折に李昭儀がどう思われていたのかはまことに興味深いですわ。才女と名高い李昭儀が後宮に入られる……どのように思われてそうなさったのですか? 後学のためにお聞かせいただきたく存じます」
言葉だけ聞くと嫌みっぽい。紅燕が言ったならばまちがいなく嫌みだろう。
他の
けれど今発言したのは、他ならぬ雅媛である。
彼女は純然たる興味、そして多少の下心で聞いているのだろう。おそらくこの場合の下心とは「新作の素材にならないかしら」というものである。
そして真桂は雅媛の下心に対しては、協力を惜しまない娘だった。
「では……
「わたくしはかまいませんよ」
皇后である小玉を立てる真桂の言葉に、小玉は即答する。
実際小玉も、同じ後宮の住人として興味はある。
特に自分は例外的な入り方をした自覚があるから。
短い準備期間に、日々「ああああ!」と叫んでる間に、後宮入りの日を迎えてしまった自分とは絶対に違う葛藤などが真桂にはあったはずだ。
小玉が頷くと、真桂は茶で口を湿して「それでは……」と語る態勢に入った。
「そうですわね、話は母が嫁いだころに遡りますか……」
――あれ?
――ずいぶん昔?
――ん? ん? 李昭儀の
いきなり世代を遡るくらい昔の話になり、全員の頭のなかで疑問の声がずんちゃずんちゃと躍りだす。
聞き手三人はそっと目を見交わし、自分たちが共通の見解を持っていることを確認した――これ絶対に「簡単な話」で終わらない出だしである。
しかし出だしで水を差すのもいかがなものか。
差し水だって、沸騰してからはじめて活躍するものである。
そういうわけでひとまず三人は、聞く姿勢を崩さないことにした。
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