4-1

 宝探し占いは大好評で、二十木が用意していたおまけは途中でなくなってしまった。それからカプセルに入れるものは色つきの紙切れになって、3の部屋でやることは風水的アドバイスだけに変わったけど、着ぐるみの珍しさから客はやっぱり来た。俺たちの休憩時間以外はひっきりなしだった。

 文化祭の終了時間が近づいたころ、亀山が俺たちに言った。「先程、ささやかながら宴の準備を頼んでおきました。うちにきませんか?」と。

 だから今、俺たちはパーティー会場にいる。

「本当に、ここでやるのか?」

 俺は室内を見渡した。使うのは俺たち五人だけなのに、やたら広い。教室の倍近いかもしれない。テーブルがいくつかあって、既に料理が並んでいる。芸でもできそうなステージや音響設備、俺がアパートで使っているものよりずっと大きなモニターもある。

「亀山の家がお菓子の店って話は聞いていたけどな」

「間違いじゃないけど、完全な正解でもないね」

 二十木は軽く笑っていた。

「カメの家がやってる〈ヒミコ堂〉は日本のあちこちに支店があるほどなんだよ。支店のない県の方が少なくなったんだっけ?」

 亀山は控えめな笑みをこぼしていたけど、俺はそこまで手広い商売をしている店と思っていなかったので驚いてしまった。家自体も「ちょっと立派な家」じゃなくて完全に「お屋敷」だ。料理を作ったのも専属の料理人で、使用人も何人かいるらしい。

「そんなことはどうでもいいでしょう。今回は、くだらない勝負を持ちかけたことに対する罪滅ぼしとして皆様を招かせていただいたんです」

 随分大げさな罪滅ぼしだと、俺は亀山に言いたかった。テーブルの料理は俺が食べたことのないものばかりで、ポンコが食い入るように見つめている。

「よだれ」

「ヨダレって何? あの食べ物の名前?」

 黄宮が横から言っても、ポンコは食べ物に目を釘づけられたまま。亀山はそれを見ながらいつになくにこにことする。

「本日の立役者であるポンコさんは、いくらでも食べてください」

「おっぴゃー!」

 ポンコは「やったー!」と言ったんだと思う。喜びすぎて言葉になっていなかった。

「フクにもお礼を言わないとね」

 二十木はフレンドリーに俺の肩を叩いてくる。

「部長ともあろう者が仮入部の子に教えられるとは」

「俺はみんなで何かできたらと思って、ポンコに頼んだだけです」

 人と一緒に何かをするのは面白い。俺はそれを久しぶりに実感できた。

 小学生のころは友達とよく山で遊んでいた。それなのに中学生のころはまた占いで当てたいと一人きりでもがく日々ばかり。そうしているうちに一人でいることが染みついてしまった。高校生になってからは、一緒に遊ぶと言うより一緒にだらけると言う方が正確だ。

「私たちは、あんなことを思いつきもしなかった」

 黄宮がジュースを俺たちのグラスに注いで回っていた。

(お前たちも考えようとしさえすれば思いついたんじゃないか?)

 俺はそう言おうとしたけど、黄宮は自分のジュースを二十木に注いでもらっているところだったので話しかけられなかった。

「とりあえず、みんなグラスを持ちな!」

 二十木が言ったとおり、俺たちはそれぞれにグラスを構えた。

「それじゃあ乾杯!」

 俺たちは二十木の音頭でグラスを鳴らし合った。ポンコだけグラスじゃなくてチキンだったけど、気にしないでおいた。


 それから俺たちは楽しく過ごした。かなり疲れていたけど、気にしていられない。どうせ明日は振替休日だ。

 二十木と黄宮は家に「今晩は亀山の家に泊まる」と連絡していた。俺は親元から離れているのでそんなことをしなくてもいいけど、こういう集まりは初めてだった。

 みんなでしゃべりながら飲み食いするものは、俺が一人で食べるコンビニのものと味が違いすぎる。ポンコも大喜びだった。

「リョク! この何とかの何とか仕立ての何とかっておいしいよ!」

「無理に名前を言おうとしなくてもいいだろ」

「あっちで部長とカメが食べてる混ぜご飯と煮物もおいしそうだね!」

「パエリアとシチュー……ああもう、好きに呼べよ」

 ポンコは嬉しさのあまりに弾け飛んでしまいそうだった。

「これ、かけてみる」

 黄宮が鞄から取り出したものを音響設備に入れた。CDみたいで、パッケージはやたらカラフル。

 流れ始めた歌は、テンションをすさまじく上げそうなものだった。俺は昔聞いたことがあるような気がしてきた。

「何だっけ……ああ、〈百○戦隊ガ○レンジャー〉? 俺が子供のころにやっていた戦隊だ」

「喜ばれそうな気がして、持ってきてた」

 黄宮はうなずいた。こんなことに霊感というか第六感を役立てるのは無駄遣いでしかない。

「あたしも見てたよ。次々出てくる動物型ロボが好きでさ」

 二十木が懐かしそうな顔をして、俺も思い出したことがあった。

「俺、超合金のおもちゃを持っていましたよ。どこに行ったかわからないけど」

 つんつんと服を引かれた。顔を動かすと、黄宮が俺を見上げていた。

「私も見てたけど、内容を完全に理解したわけじゃなかった。だから、お父さんが本放送を編集したDVDで見直した」

「お前のところは家族ぐるみで好きなんだっけ。ファンのサラブレッドだな」

「…………お……」

 黄宮は急に黙って、目までそらした。

「……おだてても、何も出ない」

 どの辺りがおだてることになっていたのか俺にはわからなかった。黄宮はしばらくうつむく。

「でも、DVDなら貸す」

「ありがとうな」

 懐かしいことは間違いないので、俺はとりあえずそう言っておいた。

「さあ、パーティーと言えばこれですよ!」

 亀山が持ってきてモニターにつないだものは、俺も持っているゲーム機だった。表示させたゲームも、俺がよくやるゲーム。二十木と黄宮はやる気満々みたいで、コードレスのコントローラーを手に取った。

「〈マ○オパーティー〉かい。いつまでもカメに女王の座を渡しておかないよ?」

「今日こそ、勝つ」

 亀山は俺にもコントローラーを差し出す。

「お一ついかがですか?」

 不機嫌そうな顔じゃない。むしろ笑顔。亀山がこんなふうに話しかけてきたのは初めてかもしれなかった。

「こう見えてもわたくし、結構うまいんですよ?」

「そうなのか……俺も強いぜ?」

「それはそれは。ポンコさんはどうでしょう」

「させてみたことはあるけど、どのボタンでどう動くか全然覚えられないみたいで。それに今は他のことで忙しそうだ」

 ポンコは食べることに集中しているし、そもそもこのゲームは四人までしか同時に対戦できない。だから俺たちだけで始めた。

 このソフトにはいろいろなパーティーゲームが詰め込まれていて、一通りやるだけでもかなり時間がかかる。亀山は自分で言っていたとおりにどのゲームもうまかった。俺もかなりやりこんでいるので、勝負は俺と亀山の一騎打ちになることが多かった。

「こんなに追い込まれていながら持ちこたえるとは、往生際が悪いですね!」

「お前も調子に乗るなよ! いつもはコンピューター相手にじめじめやっているんだろ!」

「わたくしはメイドたちを引っ張り込んだりしています!」

「おのれ金持ちが……!」

 俺はゲーム好きなんて共通点が亀山との間にあると思ってもいなかった。対戦中に随分亀山と怒鳴り合ったけど、教室でさめざめと隣り合っているときとは全然違った。

「せっかくのパーティーでいつまでもテレビゲームなんかしてられるか!」

 途中で二十木がいきなりコントローラーを投げ出した。十連敗が堪えたらしい。

「ツ○スター! 次はツ○スターだ!」

「はいはい」

 亀山は肩をすくめながらステージに上がって、脇の部屋からツ○スターのセットをひとそろい出した。マットに四色の丸がいくつも付いていて、ルーレットの指示どおりに押さえられた方が勝ちのあれだ。

「さあ、これならあたしは負けないよ!」

 対戦を始めたのは、言い出しっぺの二十木と黄宮。二十木は無理のありそうなところでも手足を伸ばして押さえていく。黄宮は張り合ったけど、うまくいかずひざをついてしまった。

「ではわたくしもお相手を」

「どんどん来な!」

 亀山も二十木に立ち向かっていった。でも結果は黄宮と大して変わらず、二十木が余裕を残しているうちに倒れた。

「あんたら張り合いがないね!」

「あなたは大人げないですね。ツ○スターで手足の長い方が有利なのは当たり前でしょう」

「何とでも言いな! 次はフクもやるかい?」

 二十木が手招きしてきて、様子を見ていた俺は亀山と入れ替わりで対戦を始めた。

 俺はずっと気になっていることがあった。対戦中の二十木は、あまりにも姿勢その他諸々がきわどすぎる。

(いくらゲームだからって……)

 しかもゲームの性質上、体と体がかなり触れ合う。

 俺はゲームが始まってからできるだけ触れないようにしたけど、そんなことは二十木にとってお見通しだったのかもしれない。赤い丸を危なげなく押さえて、俺が指示どおりに動こうとしたところでわざとらしく鼻から息を吹いた。

「さあ、童貞君のフクはこれもうまくできるのかい?」

 大抵の場合、このゲームは腹を下に向けた姿勢で行なう。でも俺との対戦を始めた二十木は逆向き。胸を上へ大きく突き出すような体勢で、俺は覆いかぶさるように動かないと指示を果たせない。そのとき胸と胸でしっかり当たってしまう。

 俺は自分がどうするべきか考えて、結論を導き出した。

「今はパーティー中だ。雰囲気を壊したらいけない!」

 言い訳っぽく告げながら、体と手を動かす。二十木が初めて驚きを顔に映した。

「ちょ、ちょっと! ナニか当たってるよ!」

 いろいろ触ってしまったけど、パーティー中だから仕方なかった。そのときもポンコが料理に夢中だったので、俺は妙にホッとした。

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