日没
(それは誰かの記憶が等し並に使われていて、要は"月並"だった。何一つ他より抜きん出た特徴を持たずに。
弦のように波打つ感情を石のように固めて。「どこに基準を置けばよいのか?」だって。ああ、時間が過ぎてしまう。
「100年。」そればかりが突出していたが、それもまあ俺の年齢から言えば寿命の後の話だから気にしなければ過ぎる。
もしあいつの言うなりになればこれは人が死んだ後に解決する問題だ。死はその為に必要な準備。それからさらに時間が経てば答えが分かるだろう。)
馬鹿にしてやがる。感情収支は行動よりも先立つものに重きを置いている。それを0にしたら後は絶えてしまいがちになる。
この感情は偽らない、真実だから大手を振って外を出歩くのだ。あの建物の入口にいる球を持った少女、感動的だ。
色紙の球を手のひらに持っている!紙のような柔らかい素材を少女が手に浮かべている!現代的なアート作品に劣らぬ光景、
それも自然に俺の目の前に現れたのだから奇跡としか言いようがない。)
後からこういう注釈がついたが、ごろつきの主観的かつ自由奔放すぎる思考のスパゲティを解きほぐすまでもなく、
不審の体で少女に近づいた事実で十分だったと言える。菜子はその場で逃げ出した。
芸術鑑賞目的に近づいたごろつきは不気味に落ち着いて怖く見える。二人は螺旋の道の上で長針と短針のように追いつ追われつしていた。
実はごろつきが熱心な鑑賞家だった証拠に、足元に落ちていた色紙にも気づかずに足を踏み降ろして、その場で彼が逆さになったのを菜子は見なかった。
菜子は建物の果てまで来た。天窓の中に焼却炉でプリント等を燃やした煙とギョロギョロが空を飛んでいる様子が見えた。空で煙と戯れているらしい。
果てまで逃げた後、立ち往生していた菜子が部屋に戻ろうとしたのは、陽の落ちかける間際の事だった。
周囲の壁が黒く迫る中を歩いて、ごろつきがいるのではないか、それともそれ以外の何かがいるかもしれないかと不安になっている。
陽の当たっていた場所が影に差し替わっている。キラキラと輝いてた宙に浮遊するゴミが消えた。
そういえば、歩いている最中は影に怯えるあまり靴や色紙に気づかなかった。
さっきの煙とギョロギョロが太陽に届いたから世界が黒く染まっていくのではないか。
永久に闇に閉ざされてこの世界の昼を知っているのは私だけになった。
『SOMETHING』のラベルを剥がした時に落日が予定されていたように思う。
部屋に着く頃には階下の層の全体が暗く閉ざされていた。部屋には小瓶が転がっているはずだがそれも暗くてどこにあるのか見えてこない。
闇の中には怪物が蠢いているに違いない。菜子が見たようにこの部屋には何もない。それで、同じ場所の闇の中で何もないと言えないわけがない。
譚 ヨナヨナ @yonayona47
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