外/頭が閉ざされる
菜子が螺旋を昇って降りる頃。塔の外にて、ゴロツキは少し昔の事を思い出していた。
中二層の監査部屋、彼含め3人の男、1人が演説口調で話している。それを終始黙って聞いている。
彼は彼の隣にいる男の姿勢を模倣しているに過ぎない。その内容如何に関わらずそうするつもりだったのだ。
それに聞いたところで何も分からない。ただ最初の言葉だけはいつでも思い出すことができた。
「この建物は役目を終えた。ついでに、都合の良い節目を迎えることができた。」
(自分に都合の良い追憶は誰にも起こるものだ。それにしても、妙な事が起こる。
100年を巡って、手元には生きのいい証拠、あの建物が残った。
あの当時は何が何だかわけが分からなくて。今更、無性に懐かしい感じがする。
太陽が沈んで、月が昇ってその周りに数多の星が瞬く夜空が見える。そんな情景そっくり。
あの一瞬が100年だとしたら、星の光がまるで光の速さと同じになる。素晴らしい眺めに違いない。
だが、アイツのせいで今日の俺の有様だ。何が「良い節目」だ。「この建物は役目を終えた。」
「やがて廃墟になる。」と後に続いていれば、俺はゴロツキにならないで済んだ未来もあったんだ。
アイツのセンチメンタルが、それに加えて妙な金ピカ趣味がここぞとばかりに伝染した。
「100年。」アイツの声も忘れた。もうどうしようもない。「100年。」まったく忌々しい。)
そして現在。あの建物には子供が一人迷い込んでいる。全ての時間が自分の為にあると思い込んでいる子供が、
何かよく分からない生き物に囲まれている。子供が、分からないことすら分からないような体験をしている。
ゴロツキの人生時間と向かい合う契機は幾らでもあった。本人は自覚していた。だが彼は、
これからどうにか立ち直る為に何かはじめることをはじめたいような気がする。
彼はその為に他人の損得に関わりあいの無い神聖な時間を持ちたいと願った。
だからと言って「何もしない」のは人生に対して砂を噛むのと同じだ。
人間には人間の時間があるから砂時計はダメだと分かる。ならばあの子供を見よう。あの子供に触れてみよう。
そうすれば彼は失った彼の人生時間を取り戻せるかもしれない?
気がつけば塔の入り口から子供の姿が見える程近くに来ていた。
菜子は手のひらに球体の折り紙を乗せていた。湾曲した折り目部分が球体の継ぎ目を完全に隠している。
色紙の散乱していた部屋にある機械の手で作られた。
実物の模倣にあるべき情味の跡は縫合され、残留物は掃き出され、球がそこにあるのを見る。
折り紙に慣れ親しんだ人はこれを見たら、決して見まいと思いつつ関心を装うか、ただ呆けたような顔をするととりとめもなく想像していると
目の前に大人みたいな人が、その通りの顔をしていたので、きっとこの人は折り紙の好きな人に違いないと思って、
よくよく見ているとその顔はゴロツキだった。その顔は何も考えまいとしている。その視線は球体に釘付けになっている。
突然の邂逅には時間が停止したかのように思える場面がある。
先に読んだ通りの出来事が目の前に起こりつつあると分かると菜子に得意の表情をさせた。
夢から醒めたように男が動きだせば、次に何が起こるのか分からない。何が起こるのだろう。
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改訂十二月九日
滑稽 → 得意の表情をさせた 。(l50)
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