塔の螺旋

 施設の窓は上層の天窓が一つあるのみ。そこは第三層と呼ばれる。地上から第三層まで続く、

緩やかに傾斜する床が弛められたバネのようである。外から見るとずんぐりとした円柱形の塔に見える。

この建物は、各層の中心に置かれた大部屋とそれを囲むようにして小部屋がある。菜子の居た部屋は入り口に最も近い小部屋で、

左手に覗いてきたドアが並ぶ。12・3・4……。左に4つ目のドアと同時に、右手に両開きのドアが現れた。此処を中一層と言う。

小部屋を繋ぐ橋が架かっていて、それ以外の場所では大部屋はいわば陸の孤島になっている。その隙間を天窓の光が降り注いで、

正午には光のカーテンが、丸い建物の中に同じように小さな丸い形を隔てる仕切りとなった。

 床には泥と靴の跡が絨毯を汚していた。中一層を過ぎると、左に小部屋が密集するような場所ではゴミも増えて、

ビニールの包みやガラスの破片、ピンク色の小さな靴が片方が打ち捨てられた。ある部屋の前には色紙が山のようにドアの下の隙間からこぼれていた。

パーティの飾り付けの過剰がさも色紙の氾濫を巻き起こしたように見える。そこで振る舞われた毒々しい見た目のをしたジュースの

一時にコップから溢れる様子が、時間を停止させて眺めている感じがする。菜子は、色紙の中から人に踏まれていない、空気に曝されて埃の被らない、

ちょっと新しい色紙を手に取った。それは黄色の色紙だった。施設の果てにある天窓に最も近い第三層まで来ると虚しい感じがした。

そこからは一等大きな空が見えた。施設で唯一の窓から見せられた空である。手元の色紙を折り紙にして、格子状の折り目をつけていった。

動物や魚、植物の切り抜かれた形に見せたり、立体を浮かび上がるようにするには、すでに無数の折り目が邪魔になった。

ドアに書かれてあったあの額縁のような線。飾り付けを諦めた結果ばら撒かれたであろう正方形の色紙。

縦横に無数の折り目をつけるのはむしろ要領を得ている。菜子はあの天窓みたいに丸い形にするにはどう折れば良いのか悩んだ。

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