終 夢喰いケムプフェン



「スイ……スイ。目を覚ますのです」


 目を開けるとアマテラスが私を覗き込んでいた。私はいつの間にか地面に仰向けに倒れていたようだ。暗雲がどこかへ消え、入ってきた時と同じ、夏の青空が晴れ渡っていた。

 龍はもういない。勝ったのだ。


「ごめんなさい。獏ちゃんが……」


 アマテラスの手を借りて立ち上がり獏が消えてしまったことを謝罪すると、アマテラスは優しく手を握った。


「スイは優しいですネ。大丈夫です。死んではいませんよ。また会えます。それよりも本当にやりました!あの窮地でよく龍がであると気づきましたネ!」


 パチパチとアマテラスが手を叩き労いの言葉をかけてくれた。その様子に、ああ、本当に終わったんだなと実感が沸いた。これで安眠が戻ってくる。じーんと涙が出てきそうになる。


「大変だったけど面白かったよ。早く帰……」

「最後は本当に大変でした。なのに。あの龍と相性良かったから助かったものの、もうつーくんったらレベル高すぎ。そう思いません?」


 勝利とこの悪夢の終焉に胸を撫でおろし、ゲーム終了を促したのに、アマテラスが何か不穏なことを言った気がして私はうっかり聞き返してしまった。これは、デジャヴ?


「あの。もう一度言ってもらえますか?」

「? テストプレイのことですか? ああ、言っていませんでしたネ。これ、まだなんです。ここから調節して完成させたら他の神々にも参加させるんで。そうしたら他の駒と協力プレイもできますよ!」

「え?」


 時が止まった気がした。静寂の間の中で蝉の声が嫌に大きく聞こえる。アマテラスは固まった私に構いもせずケロッと続けた。


「ちなみに今回の凶夢はボクの弟ツクヨミが担当しましたが、本来は凶夢も駒が演じるのでまあ言わば吉夢神と凶夢神の陣地争いってやつになりますよ! 衣装やお供、先程の技……スイのおかげで更に良いものができそうデス! 楽しみですねェ」


 ルンルンと鼻歌交じりに言うアマテラス。あの紙束はネタ帳か!

 そして私はどんどんどんどん嫌な結末しか浮かんでこない。


「……それに私って入ってたりしないですよね?」


 人は、知りたくなくてもつい聞いてしまうことがある。怖いもの見たさ、好奇心、そうでないという僅かな期待。

 アマテラスはきょとんとした顔をして首を傾げた。これは……


「何言っているんですか! もちろん入っているに決まっているでしょう。ボクの駒は君って決まっているんですから!」


 アマテラスが私の肩をバンバン叩く。まるで拒否権はない、というように。

 だけど一言言わさせてほしい。


「聞いてないし、勝手に決めるなーーーー!!!」


 出来上がったらお迎えに上がりますネー。と笑いながら逃げるアマテラスを薙刀を振り回しながら追いかける。

 かくして私の悪夢は終わらないのでした。




【私は神様の駒になった 完】


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夢喰いケムプフェン! 私は神様の駒になった Jami @harujami

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ