4 コンビニにて
夜の十一時。友人のOからドライブに行こうと連絡があった。次の日は休みだし、どうせだからと俺は行くと返事をして、十数分後にはOが俺の家の前で車を待たせていた。
車に乗り込んで俺はOに何処に行くのかと尋ねると、Oは海に行こうと言った。海に遊びに行くとしては季節外れだが、行く場所もそこぐらいしかないので俺らは海に行くことになった。
しばらく車を走らせ、よく来るコンビニの隣を通った時だった。
何かがコンビニの駐車場で転がるのを俺は見た。転がっているのは人間だった。女の人。男が近くにいて、女を蹴っていた。
「おい、あれヤバくね?」
俺が咄嗟に言うと、Oもすぐに確認したようで、「やばいな」と言う。恋人同士の喧嘩かとも思ったが、男は本気で女を蹴ったり、髪を引っ張ったりしていたので只事ではないのは感じることができる。
「引き返すか?引き返したほうがいいよな。止めようぜ、あれ」
Oが言って、車をUターンさせる。
マジかよって俺は思ったが、確かにあれは放ってはおけない状況だ。
車はコンビニの駐車場に入ると、俺は男の体格のデカさに驚いた。
デカい。髪も金髪で筋肉が凄かった。
「絶対にカタギじゃねぇだろ。ヤクザ?」
俺が言う。Oも男の姿を見て戸惑っている様子だったが、車を駐車させてすぐに車を出た。O一人に行かせるわけにもいかないし、女のほうも心配だったので俺も続いて車から出る。
男は何やら叫んでいた。近づくにつれてその言葉がだんだん聞き取れる。
「テメェが嘘ついたんだろうが!!」
叫ぶ男は女を蹴る。女は胸を蹴られたらしく苦しそうにしていた。「何やってんだよ!!」とOが怒鳴る。
俺はOの後ろにいたが、男と女の近くに来て後悔した。
男は刺青だらけで、女も同様だった。完全にあっちの方の人だと思った。
Oに怒鳴られた男は血走った目で俺らを睨み、近づいてくる。
「あ?口出してんじゃねぇよ」
どすの利いた声で男が言って、Oと至近距離で睨み合う。改めて言うが、男はデカかった。身長は二メートルにもいかないと思うけど、それに近い。しかも筋肉ダルマだ。それをOが見上げて睨んでる。
勘弁してくれよと俺は思って仲裁に入ろうとした時だった。
突然、男とOが目の前で消えた。
照明を消したかのように、パッと二人は消えたのだ。
錯覚?いや、消えた。俺が混乱していると、隣で横たわっていた女が叫んだ。悲鳴に聞こえたが、女は笑っていた。
何なんだよ。二人がいないかと俺が辺りを見回していると、後ろで大きな音がした。ゴンって重いものがぶつかったような音。
音の場所は俺の後ろから道路からだった。俺が道路を見ると、止まっている車が一台あって、その数メートル先には人が倒れていた。
こんな時に事故かよ。
いや、もしかして。俺は急いで倒れている人の近くに行くと、予想は的中した。
Oだった。
俺はパニックになった。Oの名前を呼ぶが反応はない。目は大きく開かれていて、体はぐにゃりと曲がっている。直感で死んでいると感じた。
誰が轢いたんだと車のほうを見ると、運転席にはあの男が座っていた。
笑っていた。
女も笑っている。
大きな音がした。ゴンって重いものがぶつかったような音。
その音は俺と車の衝突で発せられた音だというのは轢かれた後に気づいた。
終
或る話。 ちょろんちょ @task09
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