With love from “ ”




 あ、あ、マイクテスト、マイクテスト。なんてね。君の真似をさせてもらったよ。

 今更ボイスメッセージを残したところで、君はもうここに居ないし、誰に届くこともないから、なんの意味も無いんだけど、それでも、伝えさせて。


 世界が終わる。もちろん僕も知ってるよ。

 小さな公園で君と見た夕焼けの事も、ちゃんと覚えてる。


 学校からの帰り道。なんとなく、冒険してみたくなって、いつもは通らない道を二人で選んで。そうして歩いた先に、ひっそりと佇む小さな公園を見つけたんだ。そこには、少しだけ錆びたブランコと、塗装が剥げて古ぼけたベンチだけがあった。橙色の薄闇が包む中で、その廃退した様子はなんだか神秘的ですらあって、僕らはそれに惹かれて、ぎぃと軋むブランコに腰掛けた。

 あの時に見た夕焼け空は、他のどんな景色よりも綺麗だった。一面に広がる橙色。その中で、強く輝く宝石のような太陽の光。それを反射して笑う君の横顔を、茫と見つめていたのは、僕だけの秘密。


 僕達人間に残された、最後の願いを叶える猶予。僕は一番の願いを叶えるために、何もかもを捨てて走り出した。


 地道にバイトをして貯めていたお金、なんの意味もなくなってしまったけど。そんなのはどうだって良かった。だってそのお金は、遠くの病院にいる君に会うためのもだったんだから。


 走って走って、時には怪我をしたり倒れたりして、それでも走って。気づいたんだ。世界の終わりを前にした人間は、それはそれは強く、優しく、美しくなれるんだって。


 ここに辿り着く道中で出会った人たちはみんな、最後の瞬間は最も愛した人や物と迎えようとしていた。素直に、心のままに。みんながみんな、信じるもの、愛する者のために動いていた。保身や自己利益のための汚い嘘の仮面は取り去って、最後は美しくあろうとした。

 君の予想通り、交通機関なんてろくに機能していなかったよ。だから僕と同じように、遠くに住む誰かのために必死になって走る人も、たくさん居たんだ。


 彼らはちゃんと、求めた人物に会えたかな。

 僕は——会えなかったけど。


 ねえ、本当にどうしてなのかな。君に会いたかった。それが僕の願いだったのに。


 世界の終わり。夕暮れに包まれて、やがて星空の下で君と永遠の眠りにつく。きっとこれ以上なく幸せな最期だったろう。


 こんなことを言うのは不謹慎かもしれないけど、君が世界の終わりまで生きられずに死んでしまうのなら、せめて。せめて、僕の目の前で死んで欲しかった。会いに来たよって笑って、抱き締めてやりたかった。貴方に会いたかったのに、なんて、そんな悲しい声で言わせたくなんかなかった。

 神様の優しさは残酷だ。ここまで僕を辿り着かせてくれて。君の声を届けてくれて。それなのに、会わせてはくれないなんて。


 ああ、そろそろ夜が来るみたいだ。橙色の空のキャンバスに、深い青の絵の具が溶けていく。群青の闇が空を覆い尽くして、無数の星の光が灯るまで、そう時間も掛からないだろう。君が残してくれた声を抱いて、僕は夜の中で眠りにつくよ。


 最後に、なったけど、メッセージを残してくれて、本当にありがとう。

 そして、君の顔を見て言えないことが残念だけど、僕にも伝えさせて。


 僕もずっと、君のことが、好きでした。

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ラストメッセージ 虚月はる @kouduki-haru

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