第4話
「ねえっ!! 誰かこの扉を開けてっ!! 誰かっ! 誰かいないのーっ!! ここにまだ人がいるんだからっ!!」
少年は身を翻して扉に飛びつくと、激しく側面を叩いて把手を揺らした。
「じいちゃんはもう夢の中だって……」
まるで少年をなだめるような友人の声が聞こえた。
少年はあきらめたように膝を折り、床にへたりこんだ。
天井を仰ぐと、そこには際限のない宇宙空間があった。
「ほら見ろよ、これ! これだよ! 凄い迫力だろ? きっと3Dなんかでもかないっこないよ! だって本当の宇宙がくりぬかれて今ここにあるんだぞ!」
「あ……ああ……」
「ダークマターの話をしてやるから聞けよ」
「やだっ!」
少年は両耳を塞いで拒否した。天井も見ないように目を閉じる。
「ダークマターの中にはブラックホールがある。ブラックホールは決して星じゃない。ブラックホールの中の情報は一切外に出て来ることがない。そこは時空の領域。光さえも呑み込む強力な重力源が在る。外にいる者には完全な不可知の領域だ。いつまで待ってもその先が見えて来ることはない。ブラックホールは闇黒の口を開き、静かに、そして貪欲にまわりの物質を吸いこんでいく……」
安らかな友人の語り口調が、少年はたまらなく恐ろしくて、嫌いだった。ブラックホールという謎の物体についても、不気味極まりなく、想像もしたくないのだ。
「やだって言ってるんだよっ!!」
少年は半分泣き顔になっている。
「どんどん食べて、大きくなるんだぞ。俺たちみたいだ。でも、ブラックホールは大きいよ。とてもこのスクリーンには入りきらないぜ。入りきれないから呑みこんでいくんだよな。銀河の中にある白色矮星も、中性子星も、全ての惑星や恒星、彗星、小惑星、宇宙塵、全部食べて、ぜーんぶ呑みこんで。……そしたらさ、どうなると思う? 真っ暗があるのかな? そこには膨大な真っ暗闇があるのかな? ……ああ……ああ、そうなんだよ!! バカでっかい、大きな大きな未知の洞窟みたいでさ……その内部は……――」
ほとんど一人漫談と化した友人の話がぷっつりと途切れる。
少年はゆっくりと瞼を上げた。
「なっ………!?」
少年の身体がふわりと浮き上がった。
「ダークマターだ……俺たちは今ダークマターに包まれてるんだぞっ!!」
ダークマターとしきりに友人が叫んでいるが、少年にはそれがどういうものかはっきりとわからなかった。ただその言葉と、友人が喋る内容になぜか恐怖してしまうのだ。
少年にしてみれば、そこにあるのは紛れもなく、宇宙の拡がりであった。
【つづく】
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