第3話

 ブースに入ると、友人は手さぐりで扉の脇のスイッチを探し当て、ライトをつけた。

「うわぁ……なんだかいろいろボタンがあるけど、いったいこれどうやって動かすのさ」

「プラネタリウムを動かせないなら、たまからこんなことしないぜ」

「ま、そうだろうけど……でも、ね」

 不思議そうにブース内を一隅する少年をよそに、友人は慣れた手付きで機器に触れていく。

 少年は何もかも珍しくて、ブース内のいたる所を見回していた。

 一通り機器をいじり終えて、友人は念入りに確認をし「よし!」とつぶやいた。

「出ようぜ」

「え? ……そんな!? もう?」

 肩に腕を廻されて、少年はブースの外へ引っ張り出される。

 二人はドーム型の天井の真下の客席に着く。

 椅子のもたれを寝かせて、スクリーンを展望する。

「まずはいつものヤツだ。夕方の空から夜の空になっていく過程のグラデーションを楽しむ。そして星座だ。わかりきってるから解説の声はもういらない」

「……うん」

「星座しか観れないなんて、くだらないぜ」

「じゃあ、最新のプラネタリウムに行けばいいじゃない。3Dの宇宙が観れるんだろう?」

 少年は簡単に言った。

「凄いことがあるって、言ったはずだぜ」

 友人は少年の方を向かずに不敵に言った。

「何さ、それ?」

「俺はどうして宇宙が好きなんだ? 俺の好きなモノが宇宙にあるからだろう?」

「モノ?」

 そこで友人は珍しく、無邪気にフフフと笑った。

「モノという言い方は本当はおかしいんだろうな。ヤツは、見えない物質って言った方がより適してる」

 ふと、少年は首筋に異様なまでの寒気を感じた。イヤな予感である。頭で理解するより先に全身が拒否反応を起こすような。

「うわっ! も……もしかして!? ま、また……い、いや、このプラネタリウムが好きって、まさか……ダーク……」

 言うが早いか、既に少年は友人の隣の席には座っていなかった。唇を震わせながら、出入口の扉に貼り付いていた。

 天井のスクリーンには燦然と星が輝く。

「今頃思いつくなんて……やっぱりお前はネンネなんだなぁ」

 友人がまた大人ぶったことを言ってると少年は思う。

 そういえば、友人は自分をいじめるのが好きだったのではなかったか? 

 いい友人だ。頼もしい友人だ。嘘が嫌いな友人だ。とても正義感の強い友人だ。でも……

「ヤダよ! やっぱり僕帰るから……ここから出してもらうからっ!」

 少年はぎゅっと目を閉じ、かぶりを振りながら叫んだ。

「ホラ? 夜空がきれいですね。もうすぐ北の空に白鳥座のデネブが見えてきますよ……」

 友人はアナウンスの女性の真似をする。


【つづく】

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