―後日談―
魔界親善大使
地球への親善大使としてのお役の前——先に竜魔王の少女との約束を果たすため、未踏の地である
とは言え本来ならそこは光の使徒によって、魔族の監獄としての役目を与えられた地――旧魔界。
おまけに収監されるは、強力な封印を施された伝説級の魔王クラス——
まあ、かく言う私はその究極の頂きの力を継承してしまった故——その恐ろしさも心地良い所だが。
「ようこそおいで下さいました〜。ではこちらへどうぞ〜。」
今私は正にあの立体映像の地——
漆黒の闇を囲む、淡き光を放つ夜行花に包まれた幻想的な別荘——自らお出迎えに現れた、竜魔王に即されお邪魔する所だ。
「急く様な訪問で済まない、リリ。ではお邪魔する。」
先の映像による会見では急ぎの事情もあり、部屋の詳細までは拝見出来なかったが——なるほどこれは、落ち着いた
いかにも過ぎて目新しさに欠けたが、当のリリがゆるふわぽわぽわである為——それ以上の突拍子の無さは、流石に詰め込み過ぎて引いてしまう所だな。
「さあ、お座りになって下さいね〜。ああ、今お茶を用意します〜。」
「いや、貴女は仮にも究極の頂きだろ?私の様な新参に、そんな気遣いは無用だ。」
あまりに自然にお茶の準備を始めた
ともすれば地球の友人らとの話題に上がった、ゴキンジョサマの付き合いを絵に描いた様な対応――おい魔王と突っ込みたいぐらいだ。
と私の返答がまさに想定通りだったのか、陽だまりに揺れるタンポポの綿毛の様な微笑みのまま
「いいのですよ~。私もこの永き封印生活の中――こんな素敵なお客様に、こうも早く出会えるなんてと心が弾むのです~。」
「そう……か、では遠慮なく。」
その暖かさ――テセラを遥かに凌駕する慈愛は、彼女が究極の頂きである事を忘れさせる。
一先ずこの
見るとやはりここでもローズティーか……魔界ではこれが流行り――と言うか主流なのかも知れない。
私が招かれた大きく落ち着いた装飾のテーブルへ、ティーセットを
待て?今ここにいるのは私と
それにしては数が多すぎないか??
――その考えに至るや、何となしに嫌な胸騒ぎと共に軽く汗が噴出した。
同時に至った考えに溜息まで溢れてしまう。
と言う事で、予想はしているが
「リリ……もしかして、ここに呼んだのは私だけではないだろ。いや何、もうだいたい予想はついているのだが――」
「リリ!お待たせしました~!皆さんをご招待しましたよ~!」
私の質問が早いか、それに合わせる様に響く親し過ぎる声――溜息が盛大な物へと変化してしまう。
がくりと肩を落とし、ソファーに座したまま見知った声に恨み節を投げつけた。
「……ベル……、何をしているんだお前……。」
どうりで私がこの別荘へ出向くと言った頃に、フラッと行方を
そして恨みの半目を送る先に並ぶ顔見知り達へ、とりあえず開いた口でもう一度大きく溜息を吐いて見せる。
魔王代理に妹に、美の化身に始まって王国の天下布武から異形のタキシードまで――どさくさに紛れて、我が優しき配下と
流石にあの武を振り回すがお似合いの二人の猛将――加えて三人の配下は、場が似合わぬと遠慮した感が拭えないが。
「さあ皆さん、リリが準備してくれたお茶と共に――ささやかなお祝いを始めましょう。」
はあ……元々このリリと親しかった風の、堕天せし最高位天使までお目見えか。
最早ほぼ、三国同盟プラスその他が揃ってしまっているじゃないか。
「あの……ごめんなさいレゾンちゃん。騙すつもりじゃなかったんだけど――どうしても親善大使のお勤めの前に、即位祝いをしたくって。」
「ジュノー姉様と、二人でいろいろ考えた結果ですの……本当にごめんなさいです、レゾン姉様……。」
溜息もそこそこに、眉根を軽く寄せ――すぐに笑顔に切り替える。
うん……この二人の企画なら文句は無い――と、この二人が絡むと万事良しな私は……何かお安い女になってしまったのか?
思考にお花畑がチラつきだした私の様子を見計らい――
「お二人の提案を了承したのは、もちろん私です~。あなたは間もなく大切なお務めのため、再び地球を目指しますね?暫くははこちらにも戻れないだろうと思い、皆さんを招待してのお茶会と相成りました~。」
お節介な者達に囲まれて思う――私はあの時では考えられない程、幸せなのだろう。
地球では私の再来を待ち望む友がいて――この魔界ですら、こうやって私にお節介を焼いてくれる者がこんなに存在するんだ。
そして何より――
「……レゾン……姉様?どうなさったのですか?」
私には因果を越え――惨劇を越えて再び巡り逢えた愛しき妹がいる。
「何でもないさ。さあ、せっかく私の祝いの席を設けてくれたんだ。お節介な
「ではワシも紅茶を熱い内に頂こう。ほれ、そなたらも席に着け――適温を逃すと味が変わるぞ?」
「カミラ様のお誘いとは言え、
「いや~、リリの入れる紅茶は久しぶりだね~。さあミネルバ、ボクの隣へ――ぶっ!?」
「あらごめんさない?素敵なお茶会ですよ――もう少し
「――そなたは相変わらずだな、ナイアルティアよ。ミネルバ様……今はその者を捨て置きましょう――ナイアルティア……そなたそのまま絨毯でも味わっておけ。」
「それは酷いよヴォロス~。久しぶりの対応にしては酷すぎるよ~。」
こんなにも恵まれた人生ならば、害獣として生まれた過去など瑣末な事に過ぎないではないか。
「もう!ナイアルティアさんは、姉様達の言う通り自重して下さい!あっ、ヴィー――じゃない、テフェレト以外ではカミラだね!そのお菓子をレゾンちゃんに!」
「はい、ジュノー姉様。まあ、素敵ですわ……甘い香りが漂って私までお腹がすいてきてしまいます。それでは――」
私はすぐにでも、立たねばならぬ務めの前に――ようやく訪れたこの幸せなひと時に浸るとしよう。
その瞬間へ私を呼び込む様に、真の妹となったあのみすぼらしい少女が――祝いの菓子に乗せた思いを差し出した。
「ああ、頂こう。ありがとう――カミラ。」
「はい、レゾン姉様……。」
****
そして——
サプライズで騒がしい、ささやかな祝いの茶会を終えて
すでに待機する、地球への旅路の友——異形の魔導超戦艦が係留されるブロック。
準備を終えた
「レゾン嬢——いえ、やはり閣下とお呼びした方が——」
嘆息と同時にあなたもかと半目と不満を送りつけると、したり顔で返される。
どうも私の周りは、ノブナガ的な思考の者で固められている様だ。
類がわざわざ友を引き連れて来た感じである。
ともあれ、これより訪れる大地は生まれたる故郷——惨劇の過去も今は私を構成する人生の一つ。
そして務めを共に担うは
再び使い魔の形を取る堕天使の一方——すでに馴染む少女の姿の竜機の友。
「では、行こうテセラ——そしてカミラ!」
以前とは比べるまでもない、堂々たる面持ちで超戦艦【武蔵】へ搭乗する。
脳裏に再び会える友人の笑顔を思い浮かべながら。
——けれど私達はまだ知らない。
――そこへ
****第二部 完****
アナザーストーリー
断罪のヴァンゼッヒ 第二幕へ続く――
魔法少女戦録ブラッド 赤煉のレゾン 鋼鉄の羽蛍 @3869927
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