#9 忘れていた記憶、そして精霊

#9 忘れていた記憶、そして早すぎる覚醒


ここは、僕が昔よく遊んでいた公園だ。


幼い子供が二人、ベンチに座り何かを話している。


僕はその幼い子供には、見覚えがある。


僕とディルナだ。


やっぱり、僕とディルナは昔一緒に遊んだ事があったんだ。


今、見ているのは僕がずっと忘れてしまっていた記憶。


忘れてしまいたかった記憶。


何故、その記憶だけがすっぽりと抜け落ちていたのかは分からない。


唯、ここで僕は変わってしまった事は覚えている。


そうそこにいるディルナによって。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おはよう、ゆーくん」


僕はそう過保護で幼女な女神に言われたから、こう返す。


「おはよう、ディルナ」と。


ここは、異世界に転移される前にディルナと会ったのと同じところ。


何もないのに、無駄に温かくて暖かい。


「昔みたいにルナちゃんって呼んでよ!」


「恥ずかしいから無理。……何で今頃、こんな記憶を思い出させたんだ?」


「今はもう一人じゃないから、思い出させてもいいかなって、思ったから」


「一人じゃない、か。……本当にそうなんだろか。本当に僕は一人じゃないんだろうか」


「一人じゃないよ、私がいるもん。ずっとずっと、側にいるもん」


「……ありがとう。ディルナ、僕はこれからどうしたらいいんだろうか。本当の事を話してもいいんだろうか」


「それは、私が決める事じゃないよ。それは、ゆーくんが決める事だよ」


「そう、だよな。これは、僕が決めないとダメだよな」


「ゆーくん。そろそろ時間みたい」


「そうか」


「うん。だからね、最後にゆーくんに返したいモノがあるの。……受け取って」


そう言って、ディルナは僕を抱きしめ、黒くて禍々しいオーラがかかった何かを僕の体に送り込んで来た。


その黒くて禍々しいオーラがかかった何かは、僕の感情だ。


憎しみや悲しみ、恨みなどの負の感情、そして少しの正の感情と、ディルナの思い。


僕の心が満たされていく。


空っぽで何もなかった心に、感情が戻って来る。


今まで止まっていた僕の時間が、感情が戻って来る事により、また動き始める。


そして最後に伝わって来たディルナの思いである、『大好き』が僕の時間を加速させる。


感情を失っていた数年間を、たったの数秒で埋めて行く。


完全に全てを取り戻した僕の、いや俺の物語が、始まった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


僕は目を開ける。


僕の瞳に最初に映り込んで来たのは、知らない天井だった。


そして、僕の左からすーっ、すーっという寝息が聞こえて来る。


僕は、その寝息を立てている人が誰なのかを調べる為に、顔を左に向け、残っている左目で見る。


そこにいたのは、見知らぬ少女だった。


どれだけ僕の記憶を遡っても、一度も出て来ない少女。


そこでつい最近まであったが無くなってしまった左腕に痛みが生じた。


耐え難い激痛。


その激痛の正体はすぐに分かる。


幻肢痛だ。


その激痛を少しでも和らげようと思い、【激減】を使った。


そうすると、痛みは消えてないが、耐えれるくらいの痛みになった。


幻肢痛って治るんだっけと思いながら、今も存在している右手でそこで寝ている少女を揺らす。


「おい、起きろ」


「なに? もうご飯?」


こいつ、俺をバカにしてんのか?


「違うわ。何でここで寝てるのか、聞きたいんだ」


「ご飯作ってくれたら教えてあげる」


「お前、それ本気で言ってんのか? 俺は今、左腕が無いんだぞ」


「じゃあ教えない。おやすみ」


「分かった。ご飯作ってやるから、お前が誰で、何で俺の隣で寝てたのか答えろよ」


「うん。キッチンはこっち」


そう言って、その少女は歩き始めた。


どうやら、キッチンに連れて行ってくれるらしいので、俺はついて行く。


その少女の足取りは軽く、迷いは一切なく、一直線でキッチンへと向かった。


しばらく歩き続けると、その少女は止まり、「ここがキッチン」と言って、近くにある椅子に腰かけた。


……何これ。


案内はしたから、後はご飯を作れと言ってるのか、こいつは。


……はぁ、仕方ねぇな。


作ってやるか。


そう思い、【創造】で使う食材と炊飯器を創り、調理器具はキッチンにある物を使わせてもらう。


さてと、何を作るのかと言うと、カレーだ。


左腕が無い状態で簡単に作れる料理と言ったらカレーしかないだろうと思ったから、カレーを作ることした。


食材は【固定】で動かないようにしてから、切った。


【固定】 【バインド】と違って、生命体以外なら全て動かなくする。


そうでもしないと、食材は滑るからな。


食材を切ったら、後はその食材を炒めて、水を加えて、灰汁を取り、食材が柔らかくなるまで煮て、一旦火を止めて、カレーのルーを入れて溶かし、再び弱火でとろみがつくまで煮込んだら完成だ。


「出来だぞ。……って増えた」


なんか小さい少女が増えたんだけど。


まぁ、いいか。


僕はそこにいる七人の少女全員に、白米とカレーのルーを盛り付けた皿を渡す。


そうすると、その少女達全員がキッチンを出て、隣の部屋へと入って行った。


僕はその少女達の後をついて行くと、その隣の部屋は長い机があるだけの粗末な部屋だった。


服装も、唯白い布を巻いているだけだ。


僕はここが、オールストン帝国の王宮内の中だとすでに分かっているから、このような部屋がある事が不思議でたまらなかった。


何故分かっているかと言うと、《スキル》【空間把握】のお陰だ。


【空間把握】 自分を中心とする半径50メートル圏内の空間にどこに何があり、ここはどこなのかを把握することが出来る。


「なぁ、お前達は何なんだ? どうしてこんな所にいる?」


「奴隷」


そう一人の赤い髪の少女は言った。


「それは、本当なのか?」


「うん。ここは、王宮内の最下層にある奴隷が過ごす場所」


「と言うことは、俺も奴隷になってしまったのか?」


「ううん、違うよ。あなたは奴隷になったわけじゃないの。唯、ここじゃなければ、あなたは殺されてもおかしくないから」


「俺は殺されてもおかしくないから、一番安全なここに居るってことか」


俺を殺したいと思っている奴は、あいつらしか居ないよな。


「で、お前らだけか?」


「何が?」


「何がって。奴隷だよ、奴隷」


「ううん。今ここに居るのは私たちだけだけど、地上には奴隷はたくさんいる」


「何でお前らみたいな子供だけがここにいるんだ?」


「私たちは精霊。だから、危険だと判断されたの。それに、見た目は子供でもあなたより歳は上だよ?」


「精霊か。精霊って言うと、契約とか出来るのか?」


「出来るよ」


「マジか。ならお前ら、俺の契約精霊になれよ」


「私たちは精霊でも奴隷だから、契約出来ないの」


「そうか。なら、解除すればいいだけの話だろ?」


「そんな事出来るんですか?」


「当たり前だろ。ほら、一人一人解除してやるから、こっちに来い」


そう言ったら、赤い少女を先頭にして、七人の少女は俺の前に来た。


奴隷には、奴隷刻印が刻まれており、その奴隷刻印が刻まれている限り、その人には人権が与えられない。


そして、その奴隷刻印が消えるのはその奴隷の主人が死んだ時か、解除された時の二パターンだけだ。


俺は奴隷刻印を消すために、その少女達の奴隷刻印を見つけ、直接その奴隷刻印に触れ、【解放】と唱える。


そうすると、奴隷刻印は徐々に薄くなっていき、最終的には消えた。


「で、どうすれば契約出来るんだ?」


「契約は簡単ですよ? 私たちがあなたのステータスカードに魔力を流し、そのステータスカードを私たち、妖精の依り代とすればいいのです」


「へぇ。案外呆気ないもんなんだな」


俺はそう言いながら、ジャケットの裏ポケットからステータスカードを取り出した。


「じゃあ、よろしく頼む」


そう言うと、少女達は縦六センチメートル、横八センチメートルしかないステータスカードに、指を一本ずつ置いて、魔力を流す。


そうすると、ステータスカードに新たなる文字が刻まれていった。


俺はステータスカードを見る。


天野 優夜 16歳 男 AB型

《種族》 ヒューマン

《現在の職業》 精霊騎士 LV1

《ステータス》

【HP 14350/14350】 【MP 17580/17580】

筋力 15320 耐性 13450 敏捷 16840

器用 15680 魔力 18020 魔耐 17030

《職業》 【初級職】冒険者 LVMAX 剣士 LVMAX 盗賊 LVMAX 聖職者見習い LVMAX

魔術士 LVMAX 射手 LVMAX

【中級職】騎士 LVMAX 暗殺者 LVMAX 聖職者 LVMAX 魔導士 LVMAX 狩人 LVMAX

【上級職】 聖騎士 LVMAX 悪党 LVMAX

修行僧 LVMAX 賢者 LVMAX

【固有職】 精霊騎士 LV1

《スキル》 全スキル習得済み (LVMAX)

《派生スキル》 全派生スキル習得済み (LVMAX)

《武器》 妖刀村正

《精霊》 【上級精霊】 フェニ(火)

シル(風) クー(水) スー(土) ルー(雷)

オー(光) シイ(闇)


《精霊》の名前だけじゃなくて、【固有職】と《派生スキル》が追加されているな。


《精霊騎士》か。


UWOでは無かった、《職業》だな。


それに、《ステータス》が五桁になってる。


これ、やり過ぎじゃないか?


「えーと、何だ。フェニ、シル、クー、スー、ルー、オー、シイ。これからよろしくな」


「「「「「「「うん」」」」」」」


精霊達の髪や瞳の色は、司っている属性の色となっていて、フェニなら赤、シルなら黄緑となっている。















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過保護で幼女な女神に送られ異世界最強 神無月 月詠 @bell1220kazuma

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