第47話 さみしがりやとあまえんぼ


「おいおい、でさ、何で俺のとこなわけ?」

「い、行くとこがここしか思いつかなくて。ごめんなさい」


 アフリカから帰ったばかりの境さんがドアを開けてくれて、私は中に入った。

「俺のこと保護者みたいに思ってるんだろうけどさ、いくらオジサン扱いでも一人暮らしの男のところに自らやって来たりしたら、手出さないとは限らないぞ。俺にも欲望はある。相手があらいぐまでもな」

って言いながら、よしよししてくれるから、やっぱり甘えたくなってしまう。 


 ほんと私、無防備すぎるってわかってる。

 でもでも、こんなこと話せるの境さんしかいないんだもん。


 ……それに、今は一人じゃないじゃん? 境さん。


「来たわね、来るべき時が。って、まだ序の口よ。序二段よ。ジョニーよ」

 ね、部屋着でも、オーラ背負ってる人がいるじゃない?

 やっぱ、フツーに境さんが帰って来てもここにいたよ、小夜子さん。



「で、どこまで知ったのかな、結花は」

「私には恋していないって言われました」

「菜月に?」

「他に誰に言われるんですか」

「もう一人いるだろ、同じ顔の」

「恭さんは、それ以前です」

 境さんと小夜子さんは、心配そうに私を見ている。 


「それから、あの、二人がキスしてるの、見ちゃいました。見せつけられたというか」


 ……。


 …………。


 しばらくの間、場が静寂に包まれる。こ、今夜も夜景がきれいですね。

 あ、ちょっと間をはしょり過ぎてしまったかな。


「え、えええー!」「嘘でしょ?」

 二人がぽかーんと口を開けたまま、両手を挙げた。

 え、あれ? まさか、知らなかったわけじゃないよね。

「ほんとに、本物だな。金のエンジェルで大逆転ってとこか」

「これは、負けたわね。序二段どころか、いきなり横綱級だわ」

 二人のたとえが、なんか極端なんですが。


「俺だって菜月と恭が恋仲だって知ってても、目の前で証明されたことはないよ」

「私なんて、まだ信じてなかったくらいよ」

「はぁ……。結花は、何て言うか、あいつらにとって特別なんだな。重大な秘密を打ち明けてまで選んだ相手か」

 そうなんだろうか。私ね、ちっちゃいんだよ。受け止めるってどうやって?

 二人のキスしている姿が焼きついてしまって、脳裏から離れない。


「わたし、二人に必要な道具なんでしょうか?」


 一瞬の沈黙のあと、二人がぷーくすくす、って感じで笑い出した。

「俺なら、そう思うなら本人にわざわざ本音を言ったりしないね」

「結花、わかってる? 菜月の恋人だって紹介されたあなたが、恭一のことどんな目で見つめているか」

 え、え? 二人のことがすきなの、ばれちゃってるの?

「こんなにわかりやすい子いないわね」


「俺はあの双子にとって常に抑制力でね、小夜子は活性剤。そして君はサンドイッチの具なんだな」

 は? そのココロは?

「二人で結花をはさみたがってる。で、たべてしまおうとしてる」

 ああ。その図は私にとっても、しあわせの構図だったはずじゃないか。


 私は神様にお伺いしたんだよね。二人をすきではだめですか?って。だったら、なぜ迷うんだろう。

「私たちの、恋人になってくれないか」

 その答えを。



「ああ、とにかく今夜はこの子預かるから。うん、わかった」

 境さんが時雨さんに電話してる。黙って出てきたら心配するだろって。

「菜月が心底ほっとしてたぞ。スマホ、置いて出てきただろ」

 あ、全然気づかなかった。 


 小夜子さんが私をブランケットで包んで、ぎゅっと抱きしめてくれる。

「この子がかわいいのは、わかるわ。あひるちゃんみたいだもんね」

 ……。新たに動物属性をふやすのはやめてくださいな。

 あ、なんかいい匂いだなぁ、小夜子さん。薔薇フレグランス?


「私と境はね、最早、戦友みたいなものなの。お互い同性の時雨に先に出会って、無意識のうちに性別が違えばいいのにって思っていたのよね、きっと」

「俺は、そこは納得いかないんだけどね」

 境さんがだいぶ伸びた髭を撫でながら、首をかしげる。


「相変わらず、そこは認めないわねー。だから、瞬時に恋に堕ちたのよ。一緒に何かに向かって懸命に取り組んで、音楽でも演劇でもいいんだけど、言葉じゃない沸点を知った時の相棒。その強烈な記憶が誘導してくる熱情」


 境さんもそばに来て、私の頭を撫でてくれる。

「菜月はあれでものすごいさみしがり屋で、いつも必死に穴を埋めないといられない。誰もすきにならないなんて嘘だよ。すきな人とは結ばれないから、自分を愛してくれる人で周り中を囲んでないといられなかった。そういう時期が長く続いたんだよ。俺だけじゃ全然不足で」


「恭一はね、カメレオンみたいなの。菜月そっくりに化けてる。髪型も格好も菜月の真似して、菜月に全て寄せていってるのは、恭一の方。彼は禁忌タブーなんて無視していつだって菜月に近づこうとしてる。でもね、覚悟があるわけでもなく、ただ抗えないだけだと私は思ってるの。そこから救えるのは私だわって自負していたのにね」


「あいつもさみしがり屋だから、たちが悪い。菜月の方が早くから自分の気持ちに気づいていたから先に家を出た。しばらくアメリカに行ってたけど、磁石が引き寄せられるようにお互いを必要としていたから、俺が結局迎えに行ったんだ」


 どんな思いで境さんは菜月さんを迎えに行ったんだろう。ずっと複雑な思いを抱えてきたんだよね。

 それでも愛していたり、親友でいたりできたのは、やっぱり境さんの器が大きいせいじゃないのかな。


「結花は、流されているようで芯が強いんだよ。自分では気づいてないと思うけど。菜月が女であっても、俺が恋人だと聞いても、恭が現れても、小夜子の存在すら、いつのまにかナチュラルに認めてしまっている。そんな女の子は今までいなかった。それでいて、究極のあまえんぼ星人だろ。あいつら、そんなあまえんぼに滅法ヨワイ」


 目の前の二人が「もうやってられないわね」「やってらんねー」と天井を見上げて、同時にため息をついた。

「そろそろイタリアに帰ろうかしらね」

「俺もしばらくアフリカ気に入っちゃったから、また行ってくるかな」


 さみしがりや、には、あまえんぼの公式?


「そうよ。だいすきな二人なんでしょ? 何を迷うことがあるの? 思う存分甘えてあげなさいよ。その先がどうなるかなんて、また困ってから考えたらいいのよ」





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