第24話 Don't think, TOUCH !
水曜日の午後、境さんが暑中見舞いにアイスクリームを抱えてやって来た。
私は待ってましたとばかりに、盛大にえーんと泣きつく。
「境さんたら酷いよぉ。時雨さんが双子だってこと教えてくれないなんて」
「まあな、トップシークレットだからな。これで結花も秘密結社の一員だ」
ウィンクをしながら境さんが袋を開けると、時雨さんと恭さんがさっと自分の分を取っていった。早っ。お気に入りがあるんだな。
「具合悪い時は、店の他の者に任せて休んでいいって言ってるのに、恭が面白がって店出たがるからな」
「今まで気づいた奴いないよ」
まったく悪びれもせず、恭さんがコーンのチョコアイスにカリカリ噛り付きながら言う。
「もともと俺と境が知り合った方が先なんだ。同じ男子校出身だからな。ね、先輩」
「こいつ生意気な1年で有名でさ、でも話したら気が合っちゃったわけ。それである日家に遊びに行ったら、同じ顔の女の子がいた。腰抜かす程の衝撃のせいか、なぜだか、ひとめぼれ」
ふっと笑う境さんが、なつかしそうな顔をする。
「境、変態なんだよ。俺と同じ顔に惚れるとか、ほんとは俺のこと好きかよって思って焦ったもんな」
「俺にも未だにわからんよ。どういう思考回路でそんな面倒なことになるんだか。菜月も最初すごい胡散臭そうに俺のこと避けてたしな」
「恭から、色々武勇伝だけ先に聞いてたからね」
時雨さんはカップのかき氷を木匙でつつきつつ、イチゴで舌を赤くしながら笑ってる。
「あ、いや、黒歴史は忘れようか……」
境さんは分が悪くなってきたので、冷蔵庫にビールを取りに行った。
あの大人な境さんがこの二人にかかると、高校生みたいに屈託なくって。三人、仲がいいんだなぁ。
でも、ほんと理解不能。友人にそっくりの女の子をすきになるって、常人にはさっぱりわかんないよ。
*
ランラン、しろくまアイス。パイナップルが入ってるの。
「やっぱ残るのはこいつか。うまいのにな」
バニラアイスを片手にソファーに座った境さんは、蓋の裏についたクリームを舐めるかどうか迷ってるみたい。一人だったらきっとやってるね。
いや、それより今がチャンスだ。
時雨ツインズがおつまみを作りに同時に席を立ったので、私はこの隙に、境さんにこの前のほくろの一件の話をする。耳にかぷってされたのは隠しておこう。
「だから、ほくろも使えないんです。でも、境さんには見分けがつくんですよね。教えて下さい。どこなんですか」
「そんな大事な研究成果、簡単に教えるわけないだろ。それとも、教えたら見返りある?」
「はぁ?」
「恭に抱きつかれたんだって? やりそうなこったな。抱きごこち最高って言ってたぞ。俺も……」
ぱしっ。皆まで言わせないぞ。抱きごこちって何よー。抱き枕じゃあるまいしっ。
もうー、境さんと恭さんってめっちゃ同じ香りがする。同類項だー。カッコでくくってまとめておかないと! 名前も「キョウイチ」同士だもんね。この人たちロクな高校生じゃなかっただろうなぁ。
気を取り直して。
「左利きは完璧に見抜くポイントだと思うんですけど、これすら恭さんクリアしちゃうんです。右でも同じように何でもできちゃうんだもの」
「あいつ凄い器用だし、観察眼も半端ないからな」
「だから、境さんに聞いてるのにぃー」
「表情とか目の輝き具合とか、俺にはね、すぐ分かるの。長年の付き合いだからな。それよりも決定的なのは……」
ん? 決定的なのは? 私はそこに食いつく。
「恭一の接し方。菜月と誤解されて抱きつかれたりしたら鳥肌もんだからって、俺にはすごくわかりやすくする」
……私には寧ろ誤解されようと騙してくるんだな。ああ……。
「だけどさ、結花、バカだな。もっとはっきり区別できるもん、あんだろーが」
え? それ、何ですか? もったいつけてないで教えて下さいよー。
「さわればいいんだよ。胸。いくら菜月がツルンとはいえ、さすがに違うから」
きゃぁあああー。そんな大胆なーーー。
「ま、俺が菜月にやると、ぶっ飛ばされるけどな」
「もっと言ったら、下。むぎゅっと、ついてるやつ」
……。いちいち話すたびに、そんなセクハラできませんっ。
でもでも、そうだ。キスする時は、それ必要かも。
折角くちびるにちゅが解禁になったのに、ごたごたしてて全然時雨さんに抱きつけてないんだもん。
あ、もちろん胸の方ね。時雨さんにさわれる、正当な理由ができちゃった。しめしめ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます