第22話 我々はソーセージ
「結花も結花だよ。私以外の奴の腕の中で寝るなんて」
時雨さんはめっちゃぷんすか不機嫌だ。でもでも、時雨さーん。それは無理ってものですよぉ。
笑っちゃいけないのだけど、眉間にしわ寄せた時雨さんなんて滅多に見ないから、なんだか新鮮。
「仕方ないから紹介する。こいつは
「ワレワレハ、ソーセージデアル」
恭一さんはニヤニヤしながら、宇宙人の喋り方を真似ているらしい。
こっちはこっちで、片眉上げて喋ったりして、これまた時雨さんとは思えない表情だよ。
「ソーセージって、双生児ね、双子ね」
えっと、わかります。
「って言っても、ソーセージついてるのは俺の方だけだけど」
「少し黙れ、恭」
時雨さんがギッと睨む。
改めて並んで座ってる二人を見ても、どっちがどっちがわからない。さっき立ってた時は、若干恭一さんの方が背が高かったかも。でもそれも比べてるからわかる程度で、一人ずつ現れたらやっぱり見分ける自信がない。
そっくり、過ぎる……。なに、この展開。
「男女の双子はふつう二卵性なんだよね。だからそんなに似ていない。私たちがここまで似てるのは、調べてないけどめずらしく一卵性なんじゃないかと思うんだ」
私は知人の双子の記憶を総動員した。確かに男女の双子は、はっきりと区別がつく。双子と言うより兄妹ってぐらい。まず格好からして違うからね。男の方がリボンしてたらわからないのかもしれないけど。
そして、同性同士のケースを思い出すと、小学校時代の男子の双子はめっちゃそっくりだった。ちなみに兄が
*
「はじめまして」
とりあえず、恭一さんにあいさつすることにする。
「お、はじめまして。と言いたいところだけど、実はもう何度も会ってる」
え、は?
「どこで?」
「カフェで」
「つい先日も一緒に働いた」
……まさか……。はぁ、くらくら。
「私が体調不良で動けない時は、恭が代わりにカフェにいるんだ」
「じゃあ、この前、時雨さんが実家に帰った日に働いていたのは……」
あわわわ。やたら女の子に声かけてたの、あれ、恭一さんだ!
「俺たち、決定的に違うとこがあるんだけど、案外気付かないもんだよなー」
って言いながら、二人が目の前で朝ごはん食べてるんだけど、まるで合わせ鏡みたい。
あわせ、かがみ。はっ!
恭一さん、左利きだ! お箸左で持ってるー。
私はぐるぐると記憶を巻き戻す。
あの日、「ね、だいじょうぶ?」と言って、私の右耳のピアスを揺らした人。
近づいて来てしょんぼりした私の顔を覗き込んだ人。差し伸べた手は左手。
もしかして、恭一さんだったのかなぁ。どきんとした瞬間だった。あれが、恋に落ちた原因だと思ってるのに。
「こいつ、なれなれしくすぐ女の子にさわるからさ、休んだ次の日出勤すると、目にハート入った女の子がふえてるんだよ。まったく」
めっちゃ嫉妬したのに、あれ、時雨さんじゃなかったんだぁ。ほっとしたような、困ったような変な気持ち。
ついでに、この前の境さんの言葉がフラッシュバックする。
「あいつ、時々人が変わったようになるから。気にすんな」
……。人が変わったように、というか、代わってたんですねっ。まさかの代理店長かっ! もう時雨さんも境さんも、二人とも隠してるなんて人が悪いなー。
*
ん。そして、恭一? 境さんも京一。なるほど、だから時雨さんは境さんのことを「境」って呼んでるのか。なぜ恋人なのに名字呼びなんだろうって思ってたんだよね。少しずつ当てはまるパズルのピース。
突然目まぐるしく色んな事実を突きつけられて、私は口から魂が抜けてしまいそうになるのを両手で戻すのに、必死だったよ。なんなんだ、いったい、この人たちはっ!
「そういや、なんで恭が、泊まってんだよ」
「ああ、ゆうべ飲み過ぎて終電なくなっちまって。いつものようにベッドに倒れこんだら、なんかいた」
なんかいたって抱きつかれてましたけど。しかも、胸さわられてるし。あー、私からキスしちゃった。時雨さん、そこは見てないよねっ?
「家が塗装工事に入るんだよ。仕事に集中できないんで、しばらくここにいるから」
え? それはまた、何とも困った状況ではありませんか。
「ソファーだぞ。結花の部屋に入るの、禁止な」
再び時雨さんの睨みが入って、もう一人の時雨さんがべぇーって舌を出した。
だいじょぶか? 今度はほんとに男、だよ?
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