第22話 我々はソーセージ


「結花も結花だよ。私以外の奴の腕の中で寝るなんて」


 時雨さんはめっちゃぷんすか不機嫌だ。でもでも、時雨さーん。それは無理ってものですよぉ。

 笑っちゃいけないのだけど、眉間にしわ寄せた時雨さんなんて滅多に見ないから、なんだか新鮮。


「仕方ないから紹介する。こいつは時雨恭一しぐれきょういち。キョウの漢字は共通の共の字の下に4つ点々がある「恭」ね。私の双子の兄」

「ワレワレハ、ソーセージデアル」

 恭一さんはニヤニヤしながら、宇宙人の喋り方を真似ているらしい。

 こっちはこっちで、片眉上げて喋ったりして、これまた時雨さんとは思えない表情だよ。


「ソーセージって、双生児ね、双子ね」

 えっと、わかります。

「って言っても、ソーセージついてるのは俺の方だけだけど」

「少し黙れ、恭」

 時雨さんがギッと睨む。


 改めて並んで座ってる二人を見ても、どっちがどっちがわからない。さっき立ってた時は、若干恭一さんの方が背が高かったかも。でもそれも比べてるからわかる程度で、一人ずつ現れたらやっぱり見分ける自信がない。

 そっくり、過ぎる……。なに、この展開。


「男女の双子はふつう二卵性なんだよね。だからそんなに似ていない。私たちがここまで似てるのは、調べてないけどめずらしく一卵性なんじゃないかと思うんだ」


 私は知人の双子の記憶を総動員した。確かに男女の双子は、はっきりと区別がつく。双子と言うより兄妹ってぐらい。まず格好からして違うからね。男の方がリボンしてたらわからないのかもしれないけど。


 そして、同性同士のケースを思い出すと、小学校時代の男子の双子はめっちゃそっくりだった。ちなみに兄が孝明たかあきで「たこ」という仇名だったので、弟のあれ、なんて名前だっけ、全然関係ない名前なのに「いか」って呼ばれてたな。でも、その時はどこか顔のほんのわずかな表情で見分けがついていたんだよね。もし今会ったら、「たこ」か「いか」か、きっとわかんないな。



「はじめまして」

 とりあえず、恭一さんにあいさつすることにする。

「お、はじめまして。と言いたいところだけど、実はもう何度も会ってる」

 え、は?

「どこで?」

「カフェで」

「つい先日も一緒に働いた」

 ……まさか……。はぁ、くらくら。


「私が体調不良で動けない時は、恭が代わりにカフェにいるんだ」

「じゃあ、この前、時雨さんが実家に帰った日に働いていたのは……」

 あわわわ。やたら女の子に声かけてたの、あれ、恭一さんだ!


「俺たち、決定的に違うとこがあるんだけど、案外気付かないもんだよなー」

って言いながら、二人が目の前で朝ごはん食べてるんだけど、まるで合わせ鏡みたい。

 あわせ、かがみ。はっ!

 恭一さん、左利きだ! お箸左で持ってるー。


 私はぐるぐると記憶を巻き戻す。

 あの日、「ね、だいじょうぶ?」と言って、私の右耳のピアスを揺らした人。

 近づいて来てしょんぼりした私の顔を覗き込んだ人。差し伸べた手は左手。

 もしかして、恭一さんだったのかなぁ。どきんとした瞬間だった。あれが、恋に落ちた原因だと思ってるのに。


「こいつ、なれなれしくすぐ女の子にさわるからさ、休んだ次の日出勤すると、目にハート入った女の子がふえてるんだよ。まったく」

 めっちゃ嫉妬したのに、あれ、時雨さんじゃなかったんだぁ。ほっとしたような、困ったような変な気持ち。


 ついでに、この前の境さんの言葉がフラッシュバックする。

「あいつ、時々人が変わったようになるから。気にすんな」


 ……。人が変わったように、というか、代わってたんですねっ。まさかの代理店長かっ! もう時雨さんも境さんも、二人とも隠してるなんて人が悪いなー。



 ん。そして、恭一? 境さんも京一。なるほど、だから時雨さんは境さんのことを「境」って呼んでるのか。なぜ恋人なのに名字呼びなんだろうって思ってたんだよね。少しずつ当てはまるパズルのピース。


 突然目まぐるしく色んな事実を突きつけられて、私は口から魂が抜けてしまいそうになるのを両手で戻すのに、必死だったよ。なんなんだ、いったい、この人たちはっ!


「そういや、なんで恭が、泊まってんだよ」

「ああ、ゆうべ飲み過ぎて終電なくなっちまって。いつものようにベッドに倒れこんだら、なんかいた」

 なんかいたって抱きつかれてましたけど。しかも、胸さわられてるし。あー、私からキスしちゃった。時雨さん、そこは見てないよねっ?


「家が塗装工事に入るんだよ。仕事に集中できないんで、しばらくここにいるから」

 え? それはまた、何とも困った状況ではありませんか。


「ソファーだぞ。結花の部屋に入るの、禁止な」

 再び時雨さんの睨みが入って、もう一人の時雨さんがべぇーって舌を出した。


 だいじょぶか? 今度はほんとに男、だよ?





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