第3章 おみくじ引いたら恭が出た

第21話 目覚めたら抱きつかれてた


 ミーンミーン。かすかに聴こえるせみの声。


 朝だよ、あさ、だよー。


 うん……。体が重いなぁ。なんか動けないよ。


 あれ、目の前に腕がある。あらやだ。わたし、抱かれてる。

 わぁー、時雨さんたら、いつのまにオフトンに潜り込んで来たのー。気づかなかったよぉ。


 ……ぁ、しかも、右手ー。

 しっかり私の左胸を掴んでるんですけどっ。寝てる時は、ブラはもちろんオフです。


 気づいた瞬間に、心臓がどっきんどっきん音を立てて、時雨さんを起こしそうです。

 恥ずかしくてふりほどきたい気持ちと、このまま包み込まれていたい迷いがあって、無闇に動けません。どうしましょう。


 あったかい。手の温もりが伝わって来て、いやん。きゃぁ。


 そぉっと振り返って顔をのぞくと、長い睫毛がすぐそこに。スッとしたくちびるが少し開いてて、キスしたくなる。

 

 ちゅっ。キスで起こしてしまうのでしょうか、私。しばらくこのままそっといたいな。


「うーん」

 あれ。いつもより少し低い声。風邪引いちゃったのかな、時雨さん。


「そうだなぁ、C。いや、寝てると実際より大きい気がするからB」

 そう言って、時雨さんは右手で確かめるように私の胸をもみもみしてから、目をぱっちり開けた。


 はぁ? エッチー。キス許したら、急に大胆?


「おはよ」って、ぎゅってされる。




 その時、ドアが凄い勢いで開いた! バーン!


「ちょっ! こら、離れろー」って

 え、時雨さんの声。ドアのとこで仁王立ちして睨んでる。


 は? はい? これ、夢なのかなぁ。時雨さんが二人だなんて。

 だったらまだ目覚めたくないよ、いい夢過ぎるー。


「あ、菜月。おはよ」

って、私に抱きついてる時雨さんがあいさつする。


「おはよーじゃねー。てめー、結花から離れろー」

 あら、二人の時雨さんが私をめぐって喧嘩しちゃうの? 何、これ、私の願望かしら。だめだめ、けんかはやめて。


「何、胸さわってんだよー。私だってまだなのにー」

「おお。やわくて、気持ちいいぜ」

 論点、そこなのですか。


「あれ、だめだった?」

「この子は、違うの!」


 なんだか、おしりのところが妙にあったかいなぁ。確かめようと手探りした私は、そのままフリーズした。おかしいな、ないものがあるような。


 むくっと立ち上がった時雨さんと、ドアのとこの時雨さんが向かい合う。

「時雨ドッペルゲンガー。なんて贅沢な夢なのー」

 そうしたら二人が、同時にこう言った。

「夢じゃない!」


 え……、では、この方はどなた?

「私が菜月、こいつはキョウ」




 ……マジですか。

 しかも、さっきの感触によると、こちらの方は、男性ですよねっ。





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