第15話 おんな、なんだよね


 朝から時雨さんの具合が悪そうだ。顔は真っ青だし、なんかふらふらしてる。もしかして貧血起こしてるのかな。


「時雨さん、大丈夫? 私、朝ごはん作るよ」

少しずつキッチンでお料理の手伝いしてきたから、こういう時こそ役立てると思うの。そしたら、時雨さんたら……。


「ごめん。私、重いんだよね」

 え? は? いや、軽いでしょー、そのスリムな体型。

「生理が……」


 ガーーーン。あ……。そっか、そうでした。時雨さんは女の人なので、月のものがあるのが当然なわけなのです。

「うぉー、アスピリン効いてくるまで生き地獄……」

って、ソファーに倒れこんでる。


 生理って聞いて、ピコピコハンマーで頭を思い切り殴られた気がした。おもちゃだけどメガトン級でやられた感じ。

 ショック受けててごめんなさい。でもね、こういうことに直面するとやっぱり思うんだよ。

 私は時雨さんが女だからすきなんじゃないんだ。たまたますきになった人が女だったんだ。

 そしてそれを認めてなくて、でも引き返すことも出来なくて、とにかく自分に納得させようとしているんだけど、頭で理解しても、心が断固拒絶している。


 時雨さんが女であることをまるっと受け入れなければ、私の気持ちは本物じゃないんじゃないかな。

 時雨さんの全てをすきじゃないのに「恋」だなんて言う資格はない。失礼だよ。

 自分が突き進んでいいかもわからないけれど、その前の段階のスタートラインにつくかどうかの話。


 私のあーでもない、こーでもない苦悩など知らない時雨さんは

「ああ、まずい。横になると漏れる。出血大サービス」

って、禁止ワードをどんどんはさんでくる。ああ、うー。


 でもでも、やっぱり時雨さんには似合わないよー。やーん。

 女同士って感じで距離が血がつけたような、いやいや誤字ってる、「近付けたような」だよ。だめだだめだ、私。大混乱。


「ごめんね結花。二日目はまったく使いものにならん」

 いやいや、二日目とか言わないでー。ああー。わかるけど、わかるだけに、だめだめっ。

 でも、辛そうなのが可哀想で、そばに行ってよしよししてあげたくなる。


 しばらくして鎮痛剤がきいてきた時雨さんは、ヨロヨロしながら「仕事・仕事」とうわ言のように言って、出かける支度を始めた。

「あ、二・三日実家に戻るから、結花は自由にしててね。ごめん、ああ、油断してたー。こんな醜態晒すなんて、まったく不覚……」

とかつぶやきながら、出て行ってしまった。


 頼りないなぁ、私。時雨さんのピンチなのに、結局何もできなかったじゃないか……。



 授業が終わってできるだけ急いでカフェに行くと、時雨さんはいつも通りに働いていた。よかった、お薬効いたんだね。変わらない笑顔が迎えてくれる。


 でもさー、うーん、なんかさー。

 こんなこと言っちゃうのもなんだけど、今日の時雨さん、やけに女の子と話してない? 

 冗談とか飛ばしちゃって、はなの下伸ばしちゃってさ。何よー、すっごく心配したのにー。ぷんすか。もう知らないんだからー。

 痛みが止まったらハイになっちゃうのかしら。ホルモンの関係? 今なら私、目から嫉妬ビーム出せるかも。ジジジジジ!


 そうかと思えば、カフェが閉店した後は「じゃあな」って軽ーく別れを告げて、振り返りもせずに消えてしまった。あっさりと。

 いつも一緒に帰っているから、一人で歩く道はものすごく心細い。


「ただいま」

 前だったら一人暮らしの場所に帰って来て誰もいないのなんてあたり前だったのに、ものすごく声がシーンと響く。


 一度誰かといてしまうと、余計に一人がしみるんだなぁ。私こんなにさみしがりやだったっけ。

 ね、早く帰って来てね、時雨さん。





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