第13話 結花のことが知りたい
境さんとは徳島ネタでいっぱい意気投合した。
冷奴や秋刀魚にはやっぱり「すだち」が最高!ってハイタッチしちゃったり。(私にはハイだけど、境さんはロー?)
もうもう秋口になったら、実家からすだちいっぱい送ってくるので、じゃんじゃん絞りましょうね!
境さんに妙になついてしまった私を、時雨さんがすごく優しい目で見つめてるの。あーあ、最大の敵だったはずなのにぃ。
他にもこどもの頃は当たり前のように食べてた郷土の味の話が懐かしくて、涙が出そうになってしまった。
徳島と言えば、洗濯機のように回る鳴門海峡のうず潮が有名で、鳴門がつく鳴門金時や鳴門わかめがおいしい。浜辺で売ってるどでかい竹輪もだいすきだったなぁ。
それから、寒くなってくるとすすりたくなる、そば米雑炊。
元々山間部の
時雨さんがお目目きらきらさせて聞いてる。今度実演してあげなくちゃ。
あとね、名古屋と違うタイプのういろうに……って、キリないですね、はい。
*
そう。私は四国の徳島市出身だ。阿波踊りでおなじみのあの県。
ね、市民が全員踊ってるとか思ってるでしょー? なわけないよ。
でもね、阿波踊りは踊り子だけじゃなく、鳴り物といって三味線や太鼓や笛の人もいるし、祭り運営を支えたり関わってる街の人たちを含めたら、あながち間違いじゃないかな。
「踊る阿呆に見る阿呆。同じ阿呆なら踊らにゃ損々」って唄われてるの。
見ながら自然に手や体がリズムを取る。音が響くだけで祭り気分が盛り上がって高揚感でいっぱいになる。それだって踊ってるんだよね。
こどもの頃から、割と有名な連(グループ)に所属していたから、ほぼ一年中練習があった。夕方は常に踊ってる。
女の子の場合、女踊りという笠を被って両手を高く上げて上品に踊るものと、男踊りという腰を低く落としてコミカルに踊るものを選択するの。
私は女踊りの足さばきの美しさがすきだった。連によってテンポも裾のさばき方も違うんだよね。うちの連はゆっくりめのテンポで特に品があるって言われてた。
でもね、背が伸び悩んでいた私は、あこがれていたようなスッとした女の人になれなくて理想とは外れていった。でも、だいすきな踊りは続けていたよ。
東京に上京してきた今でも、阿波踊りを祭りに取り入れている地域が結構あるから時々見に行く。またいつか参加してみたいと思うけど、今は離れていたい。
ずっと近くに居たから私の細胞のようで、ないとどうなるのか知りたかった。去年はとうとうお盆の頃の本番の祭りの時に帰省しなかったの。生まれて初めてだった。
それでもバラバラにならずにいられたから、私にはきっと他にも道がある。
*
時雨さんが「結花のことが知りたい」って言うから、出身から今までのことを少しずつ話してるの。
隣の椅子に体ごとこっち向けて座って、至近距離で私の肩に手を置いて聞くもんだから、なにやら恥ずかしくて視線が合わせられず、どぎまぎしてしまっている。
高校は女子高に行った。制服が可愛いセーラーだったから! 中学の時のつまんないブレザーとか在り得なかったんだもの。毎日着られるの嬉しかったな。
女子高だから男子との出逢いって文化祭とか友だちの友だちくらいだったけど、何度かデートに行ったこともあるよ。えっと、詳細はカットね。
思い返してみると、同じ高校の先輩にあこがれてる同級生も結構いたな。バスケ部の漆原先輩はそこら辺の男子よりカッコよかったし、華道部の篠崎先輩は麗しくて美しい巻髪のきらきらした完璧女子だった。
わたしはその頃、心に密かに想う人がいたせいか、まったく同性に惹かれることはなかったんだ。私、フツーに男の人にあこがれるタイプだもの。
*
「ほら、その恋の話もしてよ」という時雨さんのリクエスト。
あれは、阿波踊りが終わった8月の後半。
高2の私は横浜の親戚の家に10日程滞在した。田舎にいると情報だけが伝わってきて、ずっと行ってみたかった東京の有名な塾の夏季講習に1週間だけ通ったんだ。
その時たまたま隣り合わせになった彼となかよくなったの。私がリュックにつけてた阿波のたぬきストラップ見て、何この変なのって、彼が笑い転げたのがきっかけ。
彼、
その1週間、私たちはいつもお昼を一緒に食べて講義のポイントを話したり、お互いの故郷の話をしたりして盛り上がった。それでLINEを交換して、帰ってからも毎日ちょっとずつ話をするようになったんだ。
不思議なもので日々繋がってるのは2次元とはいえ、顔が浮かぶ間柄。高校生活の悩みや些細な日常のできごと、話すことがいっぱいあった。もしかしたら、いつも一緒にいる友人たちより、いっぱいお喋りしていたかもしれない。時々通話して、そのはきはきした元気な声が聞けると尚更嬉しかった。
*
そして、高3の夏休みに再会。
同じタイミングで夏期講習を選んで、ほとんど一緒にいた。
えっと、実は抱きしめられてキスもしちゃった。(ここはまだ時雨さんには秘密。言えなーい。)お互い親戚の家にいたからあまり遅くはなれなかったけど、ほんとはずっとそばにいたかった。
いつしか東京の大学に行くことが目標になって、上京できたらきっともっとずっと一緒にいられる。そう思って受験勉強すごく頑張れたの。
親からは、せめて徳島からなら関西の大学ではだめなの?と反対されたけど、私は東京でやりたいことがある!とか嘘をついてしまって。
同じ文系でも、英文系の私と政治経済系の彼とでは志望大学は違っていたけど、東京という同じ土地に行くことが明るい未来にしか思えなくて、自分のすべてを占めていったんだ。
東京に出てきてからの話は、また今度ね。
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