第3話 み、見えちゃったんですけど


「一応言っとくと、何もしてないからねっ」


 はい。みなさまの期待を裏切りまして、ただ酔っ払った私が時雨さんに背負われて、彼女のマンションにて介抱された、とそれだけだったわけです。


 でもね、あわてて飛び起きたらなんとなく胸のあたりが心もとなくて。

 あ、あれ。なんか風通しがいいというか、自分家の気分といいますか。

 私があせって目を白黒させていると

「ごめん。苦しそうだったからブラのホック外しといた」

 時雨さんはしれっとそう言って、起き上がってキッチンの方に行く。

 あわわ、だからか。ブラは現在、胸をホールドしてないんだな。ブラがぶら下がる、いえ、何でもありません。


 それよりも! 時雨さんたら。

「わ、ワイシャツ姿」

 ってか、ワイシャツだけだよ。生足だぁ。長くてきれいな足ー。

「ああ、前はパジャマ買ってたけど上しか着ないから、これでいいかなって」

 それってまるで、女の人が男の人のとこ急に泊まって、これでも着とけよって男物を渡されて着てるやつみたい。やけにセクシーに見えるシチュエーションのあれだ。

 でも、時雨さんの場合は、なんかカッコイイ。さまになってるなぁ。


 そして……。私の目はちょんちょんと点になった。

 やばい。む、胸が透けてるー。び、微乳だけど、あ、あるー。ノーブラだぁ。

 み、見えちゃったよー。マジで女なんだって突き付けられた気分。

 私はへなへなと床に砕け堕ちて、がっくり膝をついた。


 混乱してる。だって私、今までの人生で女の人のことそんな目で見たことなかったんだもん。

 女同士、裸で着替えしてたって、きれいだなぁとか思うことはあっても、それ見て変なきもちになっちゃうとか、ましてもっと近くに行きたいだなんて思ったことないもん。


 私が一人で悶々とうなだれていると、心配した時雨さんがやって来た。

「どした? 大丈夫? 気分悪い?」

 そう至近距離で聞かれて、もうバクバク。

「ほら、水飲んでごらん」

 差し出してくれたグラスを手に取ろうとして、私の心臓はとうとう年末ジャンボ宝くじ当選発表のドラムのようにジャジャーンと派手な音を立てた。

 だって、だって、すぐ目の前に時雨さんの胸元がどアップで。はぁ、きれい。

 正直言うと、さ、さわってみたい。うっかり手を伸ばしそうだった。ぺちっ。

 やばい、これゆりだろ、百合! てか、もしかして私って変態?


 くらっと倒れた私は、お姫さま抱っこでベッドに運ばれたのでした。

 あ、だめだ。なんか腕にあたる。

 もう天空に召されていく心地です。魂、抜け出ちゃった。



 目が覚めた私のそばで、時雨さんが座ってる。何やら手を動かしてるのは、なあに。

「あ、起きた?」って、やわらかな天使のほほえみ。


「みてみて、裁縫、得意なんだよ」

 わぁ、きれい。刺繍の枠に囲まれた部分に、銀の糸で刺された蝶が舞っていた。銀粉をふりまいて今にも飛び立ちそうだ。

 なんてことだ。私なんて玉止めもボタンつけもロクにできないのに。時雨さん、お家ではすっごい乙女なんだなぁ。ほんとに女の人なんだ。

 私を刺激しないようにか、普段着に着替えてくれてるからもういつも通りなんだけど、性別超えてやっぱりきれいだな。


「授業大丈夫なのか。今もう8時だけど」

「あ、今日は3限からなんで、間に合います」

「じゃあ、シャワー浴びておいで。着替え、新しいやつだから、よかったら使って」

 そう言って渡してくれた下着が、シンプルなグレーのユニセックスで、どきんとする。だって時雨さんが使う予定だったものだよ。きゃー。

 お言葉に甘えてシャワールームを使わせてもらう。時雨さんと同じシャンプーだ。今日一日この香りに包まれて私は浮き足立ってしまいそう。きっと授業なんて全然集中できないだろうなぁ。


 時雨さんが用意してくれた朝ごはん。なんだ、このしあわせの連続弾は。

「私、料理だいすきなんだよね。おいしい?」

 か、かわいい。両手を組んであご乗せて、小首を傾げてこっち見てる。

「めちゃめちゃおいしいです!」

 ああ、女の子らしい。私より格段に料理上手だ。あり合わせだよって言ってるメニューがこれだもの。


 焼いたシャケには大根おろしの小さな山。お豆腐には大葉と茗荷の千切り。ごはんは十穀米に胡麻ときざみ海苔が乗ってる。切り干し大根と胡瓜と千切り人参の酢の物。少しずつ豆皿にのってるの。

 いいお嫁さんになるよ、時雨さん。うぁーおよめさんっ。自分で思って勝手に凹む。この複雑なきもちを一体どうしろと言うんだ。


 それにしても時雨さんの部屋片付いているなぁ。家具はほとんど白とか淡いグレーで統一されてて凄いシンプルなの。余計な物は一切置かない潔さは男の人みたい。キッチンもすっきりしていて、並んでいる道具は厳選されたものだけという印象。まるで理想の男性です。


 いいなぁ、時雨さんの部屋。私、ここに住みついちゃいたい!

 心の声がそのまま漏れていたようで、返答が来る。

「そう? じゃあ、ここに住む? 一部屋空いてるよ」

 いやーん、マジですか。時雨さんたら本気にしますよー。自分でも目がきらきらするのが鏡見なくてもわかっちゃったよ。





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