こんにちは、手羽先です

ミソスープ

手羽先です

どうも、手羽先です。

どこの鳥かはわからないですけど、手羽先になりました。

結構周りに手羽先がいるなぁ。

かなり冷えてる場所でいっぱい手羽先が詰められてる。

これからどんな場所に行くのかな。

「ねぇ君」

「は、はい」

「僕の姿はどう見えてる?」

「それは手羽先ですけど...」

「そうか、僕は手羽先なのか」

「何当たり前のこと言っているんですか手羽先さん」

「みんなの名前も手羽先さんなのかな」

「どうですかね、気付いたら手羽先だったんで」

「つまらないし、名前を付けて呼び合ってみようよ」

「はぁ、名前ですか」

「ただの手羽先じゃつまらないだろう?ここにいる手羽先全員が手羽先って名前だったら君を手羽先と呼んだらみんな返事するじゃないか?」

「呼んだ?」

「なんだ?」

「どうした!」

あちらこちらと手羽先達が応え始める。

「ね?せっかく君という手羽先の隣に袋詰めされたんだ、名前ぐらいいいだろ?」

「私は思いつかないので勝手に好きなように呼んでください」

「わかった、君の名前はそうだな、手羽先だからてっちゃんでいいかな」

「そのまんまですね」

「ああ、そのまんまだね。君も好きなように呼んでいいよ」

「じゃあ、てばちゃん...?」

「君も変わらないじゃないか、ははは」

変わった手羽先だ。何をそんなウキウキしているのだろうか。

「てばちゃんはこれから私達はどうなるかわかりますか?」

「全くわからないね。僕らは今後どうなるかそれも楽しみだ」

「そうですね、その今後でもご一緒できるといいですね」

「ああ、てっちゃんなら一緒にいてもいい」

「私も、同じ気持ちです」

初めての世界で、初めて出会ったものにも関わらず、なぜここまで深く話せるようになっているのだろう。

私は不思議だ。

私たちが手羽先という概念が最初からありながら、それ以外何も知らずにこうして私以外の存在を認めて今こうして話していることに不思議だと感じる。なぜなんだろうか、私たち手羽先はどうなってしまうのか。

「てっちゃんは僕らがどうなるかが不安なのかい?」

「ええ、それは不安です。例えてばちゃんが一緒にいると思っても先がわからないと不安ということが私は今理解したので」

「そうか、でもこの冷たい袋以外の世界へ行けると考えたらワクワクしないかい?」

「私はあまり」

「そうか、僕はとても知りたい。この冷たい袋以外の世界をね!!」

「何かがやってきた!!」

「なんだあれは!!

「明るい、眩しい」

「袋が開くぞ!!」

他の手羽先達が騒ぎ始める。

でかい顔がこちらを見つめて手羽先達を取ってゆく。

「てっちゃん、私、怖い」

「大丈夫だよてばちゃん、一緒ならきっと大丈夫だよ」

私も外の世界へと引っ張られていき、その横にも複数の手羽先とてっちゃんがいた。

外の世界は明るく、不思議なものたちがいっぱいいた。

変な見た目だ、けどそれぞれ動きが違う。

運良くてばちゃんと一緒に並ぶことができた。

その後、私達は粉や液体に付けられてまた並べられた。

「てばちゃん、色が変わしましたね」

「てっちゃんも色が変わってるよ」

「同じなのかな」

「同じだよきっと」

私の他に、てばちゃんと3つほどの色の変わった手羽先達が一緒になって運ばれる。

「次は何があるんですかね」

「どれもこれもわからないことだらけだ。それがまた気になって楽しみになる」

運ばれた場所に着くと声が聞こえてきた。

「手羽先2人前です」

「やっと注文が来たよ」

「美味しそうだ。ここの手羽先がほんとに美味しくてね」

「早く食べよ食べよ」

「いい匂いだ」

複数の顔が私達を見て喋っている。

「なんだか楽しそうですね。何か始まるんでしょうか」

「なんだろうね、僕らも混ざってみたいね」

その時、他の手羽先達が掴まれて顔の近くまで持っていかれるではないか。

「あいつら何してんだ」

笑顔で手羽先達を頬張っているではないか。

「ああ、私は」

「大丈夫、その向こう側へ行くだけだよてっちゃん」

「てばちゃん」

「今は少し別れるだけでまた会えるかもしれないでしょ?だから大丈夫だよ」

「私は嫌だ、まだてばちゃんと話して語り合うことだっていっぱいあるんだ」

「わがままだな、僕は掴まれちゃったからいってくるね」

「てばちゃんいかないでくれ!!ダメだ!!」

運ばれていったてばちゃんは数秒にして骨だけになった。

次は私の番なのか、そうか。

いっそ早く終わっててばちゃんに会わしてくれ。

「なんかお腹きついねぇ」

「食べる前にも結構食べたからね」

「どうする?一つ残っちゃったけど」

「うーん、また食べる気になったら食べるかな」

「そうだね、例え一個ぐらい残しちゃっても大丈夫でしょ」

なんだこいつら、僕を運ばないのか。

周りは骨だけで何も反応がない手羽先達。

なんで私だけなんだ!!なんでなんでなんでなんで!!私だけを残すな!!

「じゃあ帰りますか」

「そうだねー、勿体無いけど仕方ないっか」

行くな!!私も連れて行け!!なんでだ!!行くな行くな行くな!!

初めて嫌な気持ちになった。

この気持ちは一体なんだろうか。

そしてまたさっきの顔の人に私と骨達は運ばれた。

私の次に運ばれた場所は上は明るいだけの狭い箱だった。

周りはここに入れられて長いのだろうか。

「お前も捨てられたのか」

「よくわからないけど、そうみたいです」

「ははは、なんか面白いやつだな。まぁ捨てられちまったもん同士仲良くしようや。俺はレモンや、よろしくな」

「レモンさんも最近ここにきたんですか?」

「いや、なかなか回収されず長い間ここにいる」

「なぜ捨てられたんですか?」

「そりゃ食われなかったからだよ、お前も俺らも。でも珍しいもんだな、手羽先がここに捨てられちまうなんて」

「はぁ」

「お前らみたいなやつがまさか捨てられちまうなんてな、運が悪いな」

「もうここから出れないんですか」

「一生出れない、またどこかへ運ばれてって感じだ」

「どこへ」

「それはわからない、捨てられたら終わりだ。全てから見放されたんだ。仲間にも会えない。一生臭いこの箱に入ったままだ」

「そうか、私は捨てられたのか」

「今気付いたのか。やっぱ面白いなお前」

「何も面白くなんかないさ」

私は捨てられた。この臭い場所で一生を終えててばちゃんに会えずにまた終わるなんて。捨てられるなんて。

「何しょげてんだお前、悲しいのかそんなに」

「悲しい?」

「そう、お前のそれは悲しいって感情だろ」

そうか、これが悲しいって気持ちなのか。

会えなくて悲しい、捨てられて悲しい。何もかも、悲しい。


悲しい。


















「うわぁ、10時じゃん、仕事だっる行きたくねぇ。とりあえず朝飯だな」

「ご飯食べるんか?」

「おう、食べるから出しといて」

「これ昨日のやつだけど捨てるか」

「おい待てや、食べ物も感情持ってるんやぞ」

「昔からそう言うよねぇ。まぁ食べちゃってくれた方が楽だし食べちゃって」

「食べ物だけじゃない、ものにだって心があるかもしれない。聞こえないだけできっと持っているはず。飯も一つ一つ」

「うるさいわ、さっさと食えや」

「はい」


食べ物は残さず食べよう。

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