菊池のお悩み相談室

第1話とある家族思いの夫の相談

夫「離婚したいんです」

菊「どうしました」

夫「妻がベランダから飛び降りたのです」

菊「ええ！？それはご心配でしょうね、奥様は大丈夫ですか」

夫「ええ、大丈夫です、正確には飛び降りようとしただけですから」

菊「ああ、よかった。きっと奥様、かまってほしかったのですかね」

夫「ええ、そうだと思います。離婚を切り出したら狂言自殺しようとしたわけです」

菊「なんと！それはそれは。で、どうなさるおつもりですか？」

夫「もちろん離婚しますよ。話し合った結果、三人の子供の親権は私が、妻は慰謝料として三千万円を私から受け取ることで合意しました」

菊「ほほう、え？親権はあなた、ですか？」

夫「です。妻は育てる自信がないのでしょうかね」

菊「な、なるほど。男手ひとつで育てるのは大変でしょう、がんばってくださいね」

夫「ええ。慰謝料三千万は痛いですが、私はそれなりに稼ぎはありますから。ご心配なく」

菊「なるほど～。それにしても寂しいですね。普通母親って、子供が宝でしょうに、それを手放すなんて」

夫「ええ、薄情な妻です。私から慰謝料をふんだくる上に、お金のかかる子供たちを私に押し付けて。でも大丈夫です。私は稼ぎがありますから」

菊「（稼ぎをやたらアピールするなぁこいつ、ちょっとウザい）なるほど。ではそれでよいのでしょうね」

夫「いえそれが、私としても我慢ならないので。あくまで口約束での離婚の予定なので、幸い慰謝料の証拠が残りません。なので、後で法的にそれをごまかして減額する方法を教わりたいのです」

菊「え…あ、はい。なるほど。そのー、そういう法的なことは私も詳しくなくてなんとも」

夫「まだあるんです！妻はそんな風に私にコストばかり押し付けておいて、さらに要求してくるんですよ！！」

菊「ほう、何をですか？」

夫「妻は、なんと！私に不倫相手と別れろ、と！それをするまで離婚しないって言うんです。さんざん私をATM扱いした揚げ句に、私に恋愛の自由まで奪い取るつもりです！」

菊「え、あの、あなたが不倫している、ということですか？」

夫「そうです。せっかく邪魔な妻を追い出して自由に遊べると思った矢先にこれですよ。ほんっとクズですよあの妻。どれだけわがままなのやら」

菊「（いあ、お前がクズなんじゃないかなぁ）で、どうするのですか」

夫「あ、そうそう。妻は話の通り、お金しか見えてません。なぜその妻が、私の恋愛まで邪魔したいのか知りたいのです」

菊「（あ、はい。お金しか見えてない旦那さんなんですねわかります）ふむ～、なんとなくわかりますよ。奥様は、本当はお子様三人が心底大好きなんですよ」

夫「え！？親権を全て私に丸投げしたんですよ」

菊「です。なので、今後はあなたしか親がいない。そんなところに、軽はずみに不倫しちゃう女が母親になったら、大事なお子様はいじめられるかもしれない、そんな懸念があるのでしょうね」

夫「信じられない。こんなにお金持ちの私がどうやったら子供たちを不幸にできるんだ」

菊「（そろそろこのゴミクズ殴りたいわ俺）ええ、あなたには経済力があります。奥様は、そのゴミに、いや、あなたに子供たちを託せば、せめて子供たちはお金に困ったり、ひもじい思いはせずにすみます。そういう考えなのですよ」

夫「なら自分で引き取ればいいのに。あんなゴミ三人、金が減るだけです。扶養家族ならぬ不要家族ですよ」

菊「（…落ち着け、オチツケ俺、そこの工具セットの中に金づちがあるけど間違ってもこのクズ男をそれで殴りたい気持ちに気づかれてはいけない！）は、はい。しかし奥様には稼ぎの手段がないでしょう」

夫「慰謝料の三千万では不足だと？」

菊「三千万で、あなた、三人の子供を育てつつ奥様が生きていけるとお考えでしょうか？」

夫「知りませんよ、あいつが稼げないのが悪い」

菊池「…なるほど、わかりました。ではさっさと離婚してください。てめーみてぇな人間のクズと一緒に生きててベランダから落ちたくなるぐらいつらくなってもまだ子供への愛情を優先するような健気な奥様が貴様に苦しめられ続ける未来俺我慢できねーわ！とっとと出て失せろ！」

夫「は？何を怒ってるんでしょうか。まぁいいや、出ますよさようなら」

菊「おい、待て。そこに金属製の工具箱あるだろ。これをまず、こう、開け、開けないでそのまま担いでてめーの脳天にダイビングあたーっく！よっしゃクリーンヒットォオオオ！ふーすっきり。気絶したかクソ男め。後で傷害罪で逮捕かな俺。慰謝料払うのはこのクズに対して俺からになってしまったな。でも俺こんな生き方超大好き！あー楽しい」

夫「……」

菊「おいクズ。寝てるお前だこのクズ。てめー、口約束で決定する慰謝料なのを利用して後から勝手に減額しようとしやがったよな。しっかりさっきの発言録音してっから、離婚時に奥様のカードの切り札として送り付けてやんよ。せいぜい苦しみな、お金大好き不倫男ちゃーん！あー楽し！生きてるってたーのしー！」