イワオと小人と一つの願い

木林藤二

イワオと小人と一つの願い


 俺、イワオ。空地の隅で岩を持ち上げ続け、もうすぐ一時間経つ。正直しんどい、手が痺れてきて血管がブチキレそうだ。だが俺も男、ここで止める訳にはいかない。


「お前何してんだ?」


 俺の後ろから姉であるタケミの声がした。

 走ってきたのか息が切れている。


「見りゃわかるべ? 筋トレだよ! 俺イワオって名前してるくらいだし、どのくらい 持ち上げられていられるか試したいんだ!」


「下らねぇことしてんじゃねぇよ脳筋! お昼だし戻らないとママに殺されるぞ!」


 脳筋は余計だが、俺を呼びに来てくれたようだ。うちのおかんはガチで怖い。


「ん? なんだこれ?」


 ひょいとタケミは俺の足元にあったものを拾い上げた。気がつかなかったが人形のような物が落ちていたらしい。


『や、やめろ! 儂はこの森に古く住む小人王じゃ! 放してくれたら何でも一つだけ願いをかなえてやるぞ!』


 突然人形はしゃべりだした。驚き俺達は顔を見合わせる。

 勿論もちろん、この間も俺は岩を持ち上げたまま踏ん張っている。


「マジで!? 何にしようかな! ……つうかお前よく見ると気色悪っ!」


 ポイッと小人を放り出すタケミ、その時だった。


『嘘だよバーッカ!! 誰がお前らなんかの願いを聞くか!!』


 大地に降り立った小人はあかんべぇをし、一目散に走り去ろうとする!


ドンッ!


 その時、俺は持っていた岩を離す。岩は小人の上に落ちた。


「何してんだお前!? 駄目にしちゃったじゃねーかっ!!」

「タケミは本当に馬鹿だなー。もし願いを叶える程の力があったら、とっとと俺達の前から姿を消していた筈じゃないか。態度もムカついたし、こうなって当然」

「…あ、そっか」


 健全な肉体には健全な精神が宿る。筋トレをしていた俺は頭が冴え渡り、ついでにさっき脳筋呼ばわりした姉をここぞとばかりに呼び捨てにした。


『たしゅけてくれー! さっきはすまんかった! 本当に願い叶えるから!!』


「うわっ、何こいつまだ生きてるし!」


 岩の下から声が聞こえてきた。

 しぶとい奴だ、俺はかがんで岩に向かいこう言った。


「そんな力があるなら俺ンのカレーの具から茄子なすを消して見せろ! 俺のおかんはろくに料理も知らない癖に、水茄子を輪切りにしてそのままぶち込み『茄子カレーだ! どやっ!』とか言ってんだぜ!?」


 …悲しいが我が家の実話だった。俺は茄子カレー自体は好きだ。だがおかんの作る茄子カレーは水っぽく、味が変わってしまい食べれたものではないのだ。本人は自分の作るカレーが美味いと思っているらしく、逆らうと酷いので口に出さないでいた。


「アホくさ。ちなみにお昼はお前の好きな茄子カレーだ、よかったな」

「ガッデム!! オーマイカレーの神よ!」


 肩を下ろし、俺はタケミに連れられて空き地を後にした。



 台所のテーブルに座り、我が家は昼飯となる。驚いたことにカレーに茄子が入っていなかったのだ。その理由はとても恐ろしくて聞けなかったが、俺と姉は思わず顔を見合わせた。


 まさか、あの小人は本当に……。


 カレーを即行で食べ終わし、俺とタケミは再び空き地へとやってきた。急いで岩をどかすとそこには小人の姿はなく、代わりに小さな穴が空いていたのだ。どうやら俺達が帰ってこないと諦め、自ら穴を掘って脱出したようだった。


 それを見た瞬間、姉は突然発狂して岩を持ち上げぶつけてきた!


 思えば当然の報いだった。

 俺が願いを下らない事に使い、小人を逃がしてしまったのだから……。


 薄れゆく意識の中、俺は「岩になりたいね」と願った。


おわれ

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イワオと小人と一つの願い 木林藤二 @karyou

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