第3話

 はい、テレビの前の皆さん。こんにちは。


 皆さんは『仕返し屋』という都市伝説をご存知でしょうか?


 仕返し屋は、どこからともなくいじめられっ子の前に現れ、助けてくれる超能力者さんらしいです。


 ネット掲示板での情報なので、私も今までは半信半疑でしたが……今回、その仕返し屋さんがスタジオに来てくださいました。


「どうも、噂の仕返し屋です」


 はじめまして。仕返し屋さんと、呼べばいいのですよね?


「はい、それでOKです」


 今回は仕返し屋さんに、視聴者の皆様からいただいた、いろんな質問をぶつけていこうと思います。


「ぶつけられていこうと思います」


 では早速、最初の質問です。


 仕返し屋さんは、何でもできると聞きましたが、本当ですか?


「そうですね、できないことの方が少ないと思います」


 大きく出ましたね。


「事実ですから。ピラミッドを逆さにして回転させて、ベイブレードごっこをすることだってできます」


 す、凄いですね……。仕返し屋さんは、魔法使いなんですか?


「その日の気分によって変わりますね。魔法使いと名乗る時もあれば、エスパーと名乗る時もあります」


 ちなみに今日の気分は?


「うーん、堕天使で!」


 ふふ、面白いですね。


 では次の質問です。


 仕返し屋さんに依頼したいのですが、どうしたらいいですか?


「基本的に、私は依頼人に自分を売り込むビジネススタイルですから。一般人から私に依頼するのは不可能だと思ってください」


 そうなんですか?


「だって私の能力は、世界で私しか持っていないですから。誰彼構わず依頼を受けていたら、私が自由に過ごす時間がなくなってしまいます」


 確かにそうですね。


 では、どんな人に自身を売り込むのですか?


「最初に、その人のオーラの色を見て判断します」


 オーラの色……ですか?


「私の目は、その人の心理状態を色で見ることができるんです。怒っている人は赤、悲しんでいる人は青、みたいに。そして私は黒い人を依頼人に選びます」


 仕返し屋さんの仕事内容から、だいたい想像できますけど……一応テレビ番組なので質問しますね。黒い人はどんな心理状態なのですか?


「ズバリ、絶望、です」


 おお、やはり。

 絶望の淵にいる人……その人に、自身を売り込むんですね。


「いえいえ、まだです。次にその人が黒になった原因を、サイコメトリーで心を覗いて調べます」


 原因ですか?


「黒い人には2種類あるんです。自業自得で黒くなった人と、他者からの中傷で黒くなった人。私が売り込むのは後者です」


 前者の人は助けないのですか?


「助けません」


 言い切りましたね……。


「自業自得で黒くなった人まで助ける義理はありません。私はそこまでお人好しじゃないですから」


 なかなかシビアですね。


「言ったでしょう。私は堕天使だって」

 

 ちなみに、私は何色ですか?


「黄色ですね。黄色は楽しいとか面白いとか、そういうポジティブな感情です。あなたはこの仕事にとても満足している、と言えます」


 ふふふ、なんだか占い師みたいですね。


 では次の質問です。


 視聴者の方の中には『仕返し屋の復讐はやりすぎ』という意見もあるのですが……これについては、どう思いますか?


「……その『やりすぎ』と言ったのは、誰ですか?」


 え? えーっと、誰と言われましても……匿名としか。


「では言い方を変えましょう。『やりすぎ』と言ったのは、どの立場の人間ですか?」


 立場、ですか?


「分かりやすく、例えを交えて説明しましょう。依頼人がのび太くん、いじめっ子がジャイアン、そして私がドラえもん……頭のネジが少々外れたドラえもんです。ジャイアンからいじめられたのび太くんは、ドラえもんに仕返しするように依頼します。そしてドラえもんはひみつ道具を使って、ジャイアンを懲らしめます。ここで、何者かによる『やりすぎ』発言が出ます。そして、どのキャラクターが『やりすぎ』と言ったのか、それが重要になってきます」


 なるほど。


「もし『やりすぎ』と言ったのが、ジャイアンだとします。その場合、私ことドラえもんは『ふざけるな』と罵りながら、さらにジャイアンを懲らしめます」


 ジャイアンに厳しいですね……。


「だってそうでしょう? 今まで散々のび太を中傷しておきながら、いざ自分がやられる側になったら『やりすぎ』。調子に乗ってますね。スモールライトで小さくして踏み潰すレベルです」


 仕返し屋さんはジャイアンが嫌いなのですか?


「いやいや。今回は、この番組を見ているチビッ子にも理解できるように、ドラえもんのキャラクターを例えに使っているだけで。私はジャイアン好きですよ。たてかべ和也版が良いという人が多いですけど、私は木村昴版も好きです」


 私も好きです。


「次に、のび太くんが『やりすぎ』と言った場合です。私は『のび太くんがそういうのなら』と、それ以上ジャイアンに復讐するのをやめます」


 あら。意外とあっさり。


「私はあくまで復讐代行ですからね。依頼人ののび太くんが『やめろ』と言うのであれば、そこでやめます」


 なるほど。


「次です。『やりすぎ』と言ったのが、スネ夫やしずかちゃんのようなのび太くんのクラスメイトだった場合です。ある意味、彼らが1番最低な人間かもしれません」


 と、言いますと?


「スネ夫としずかちゃんは、のび太くんがジャイアンにいじめられていることを知っていたはずです。でも彼らはジャイアンからのび太くんを守ろうとはしなかった。でもドラえもんがジャイアンを懲らしめたら『やりすぎ』。最低な連中ですね。私ことドラえもんが、自分達に危害を加えないことを理解した上での『やりすぎ』発言ですから」


 スネ夫としずかちゃんには、仕返し屋さんからは何もしないのですか?


「さきほども言いましたが、私は代行です。そして標的はジャイアンだけです。他の者には何もしません。まあ、ムカつきますけど」


 なるほど。


「最後です。『やりすぎ』と言ったのが、そうですね……野原ひろしだった場合です」

 

 いきなりドラえもんとは一切関係の無いキャラクターが出てきましたね。


「ここでのポイントは、『のび太くんがジャイアンにいじめられていたことを知らない』ことです。そのため、野原ひろしに登場してもらいました。……ドラえもんは復讐代行でジャイアンを凝らしてましたが、事件背景を知らない野原ひろしには『ドラえもんがジャイアンを一方的にいじめている』ように見えたはずです。その上での『やりすぎ』発言……こういう人は率先していじめを止められる、勇気のある人物です。いい人です、聖人です、さすが野原ひろし。こういう人の下で働きたいです」


 万年係長ですけどね。


「あくまで例えですよ例え。……以上が私の、視聴者からのやりすぎ意見に対する返答です。私の話を聞いて、自分がどの立場から『やりすぎ』と言っているのか、よく考えてください」


 なるほど。

 ……おっと、そろそろお別れの時間が来てしまったようです。


「あらら。すみませんね。長々と話してしまって」


 いえいえ。貴重なお話。どうもありがとうございました。

 また機会があれば、是非スタジオにお越しください。


「はい、もちろん」


 それでは皆さん、さようなら。


「さよなら~」







 この仕返し屋が出演した番組は、25%を超えた。


 なお、この番組の放映中、本物の仕返し屋はYoutubeでゲーム実況を見ていた。




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【1話完結型】仕返し屋 9741 @9741_YS

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