冬の精霊

9741

第1話

 冬、僕に彼女ができた。 

 

 名前はユキ、僕が名付けた。 

 彼女は雪から生まれた、雪の精霊だ。 


 僕達は愛し合い、共に時間を過ごした。 

 雪合戦、かまくら作り、雪だるま。 


 僕達は冬を満喫した。 


 しかし、そんな楽しい時間も、もうすぐ終わってしまう。 

 春が来る。春の足音が聞こえてくる。 

 春が来ると、ユキは消滅してしまう。熱で溶けてしまうのだ。 


 僕は必死に抗った。 

 大量の保冷剤を買い込んだり、冷房をガンガンに効かせたり。 

 自分ができるあらゆる手段を試した。 


 だがどれも無駄だった。 

 ユキの身体がどんどん小さくなる。消滅の時が近いのだ。


「ハルくん……」 


 彼女が僕の名前を呼ぶ。こんな状況だから、ハルという自分の名前が恨めしい。 

 僕はユキの手を握る。いつもは氷のように冷たい彼女の手は、素手で触っても平気なくらいの温度に下がっていた。


「ユキ……。……まだだ。南極に移住しよう。そこなら君も……」 


 だが彼女は首を横に振った。


「もう、いいよ、ハルくん。もう、十分、だよ」 


 覇気の無いユキの声。徐々に彼女の身体も透けてくる。


「雪が、降ったら、ま、た会いましょう」 


 そう言い残し、ユキは消滅した。


「ユキィいいいいいいいいいいい!!」 


 僕は涙ながら、彼女の名前を叫んだ。






「やっほー、ただいまハルくん!」 


 元気な声で挨拶してくるユキ。僕は呆気に取られる。 


 あれから一年後の冬。彼女が言ったように、雪が降ったら、彼女にまた会えた。 

 彼女曰く、雪の精霊は、冬になれば再生できるらしい。


「はは、なんだそれ」 


 あんなに感動的な別れをしたのに、簡単に再会できてしまった。 

 僕は笑いながら、ユキを抱きしめる。 

 彼女の身体は、とってもとっても冷たかった。

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