ワシを探すフレンズ

@kokokotoko

旅立ち

 昔々、桃から生まれた桃太郎、愛人から生まれた愛人太郎、清朝から生まれた愛新覚羅太郎の三人は、消息を絶った第九軍団、そして、失われたワシを探すためにローマを旅だった。

 三人はある港町で、漢人の経営するカフェーにたどり着いた。

「ふわああぁ! いらっしゃぁい! よぉこそぉ↑ケシのカフェへ~! どうぞどうぞ! ゆっぐりしてってぇ! いやま゛っ↓てたよぉ! やっとお客さんが来てくれたゆぉ! 嬉しいなあ! ねえなんにぃのんむぅ 色々あるよぉ、これね、アヘンって言うんだってぇブリトン人に教えてもらったンの!」

 愛新覚羅太郎はしあわせの白い世界の中で夢心地にきいた。

「ワシを探しているんだ。第九軍団さ」

「第九軍団ですって? そいつはいけませんや。悪い噂ばかりですよ。なにしろ、ワシが消えちまったんですからね」

 太郎たちは一斉に反論した。

「カレドニアに行ってだれひとり戻ってこなかったんだ」

「ワシが無くなったって」

「不思議があるもんか」

 店主は両手を上げて、降参とばかりに頭を振った。

「ええ、そうです。そうでしょうとも。父上のことを侮辱したつもりはないんです。気を静めてくださいな。太郎くん。さ、もうひとかけら」

 三人は良い気持ちになって店主から話をきいた。

「そうですね。このあたりで気になることと言えば、やはりドルイドです」

 太郎は耳をうたがった。

「ドルイド僧だって?」

「あいつらは、スエトニウス・ポウリヌスが始末したはずじゃあ……」

 清朝の太郎は薬におぼれて、すでに廃人に成り果てようとしていた。

 店主はため息をついた。

「教壇の施設を破壊したって、信仰が消え去るもんじゃありませんや」

 太郎たちが顔を見合わせていると、外から叫び声がきこえた。

「ドルイド僧が出たぞぉ!」

 太郎たちはもはやピクリともしない愛新覚羅太郎を捨てて、外に飛び出した。

 外ではひげを生やした屈強なブリトン氏族のフレンズたちが、粗野でいかつい斧や、豪華な羽根飾りをつけた槍を振りかざして、どっと押し寄せてきた。

「ディフェンシブ・テストゥード!」

 町の守備隊のフレンズたちは槍を投げたあと剣を抜き、盾を合わせて密集隊形を作り、土手の上からはサギタリィのフレンズたちが矢の雨を降らせた。

 しかし、ブリトン氏族たちはひるむこと無く突撃して激戦となった。

 太郎は叫んだ。

「戦車だ!」

 ブリトン氏族の四頭引きの戦車が守備隊を蹂躙しようとしていた。

 ふたりの太郎は戦車の前に立ちはだかった。飛び移って御者を引きずり下ろすつもりなのだ。

 覚悟を決めたふたりの耳にピューっという耳慣れない音がきこえた。なんだろう? と思う間もなく近くで大爆発が起こった。

 爆発は次々と起こり、守備隊も、ブリトン氏族も、市街地の区別もなくすべてを焼き払っていった。

 だれかが絶望の声を上げた。

「英国東洋艦隊だ! アヘンの密売を取り締まったから軍艦を送ってきたんだ!」

 ふたりはもう訳がわからなかった。しかし、ひとつだけわかることがあった。

 爆発の跡地に黄金にかがやくワシがあったのだ。地中に埋まっていたものが、爆発で掘り起こされたに違いない。

「ワシだ! ワシだ!」

 ふたりは脇目も振らずワシに駆け寄り、それを手に取るとしっかと抱きしめた。

「父上、ちちうえ!」

 これを持ち帰れば軍団の名誉は回復される。母もよろこぶ、父にもほめてもらえよう。

 ふたりはゴミクズを抱きかかえて走り出した。

 まるでふたりを狙ったのかのように、一発の砲弾が落ちてきた。

 ワシがアヘンの見せたまぼろしであったとしても、最期の瞬間まで、ふたりはしあわせだったろう。

 愛新覚羅太郎は眠っているところを助け出され、清朝最期の皇帝となった。

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