4-18 冒険

「――というわけでした。じゃあね」

 土球ガイアが落ちてくる。

 どう見ても禁じられた火球エン・パイロじゃ押し返せない質量。

 四年後、あれよりはるかに大きな土球ガイアが、フィンたちの親玉を乗せて……か。

 まぁ、なんとかなるって気はしないな。

 博士とやらの言う通り、知らないほうがよかった。

 

「エバンス!」と、ドラ子が力強く俺を呼んだ。

 それから、「隠し事してて悪かった。お前が行きたいって言うんなら、知恵の樹マヤウェルに会いに行こう。真実を確かめよう。その前に、あの小生意気なガキを倒す」と言って、変化トランス円月輪チャクラムの姿になった。

「全力の火属性付与レッドウェポンで着火して、思いっきり回転かけて投げろ。土球ガイアもあいつも、まとめてぶった斬ってやる」

「……」

〝回転〟か。イチかバチかだな。

「なぁエバンス、お前は未だに、安全な〝冒険〟しかできねぇのか?」

「……」

「もう違うだろ?」

「ああ。俺は本物の冒険者だ」


 装填リロード――


禁じられた火属性付与クリムゾンエッジ〟。


 行け、ドラ子。

 俺は体を大きく捻って、最高の仲間をブン投げた。


 激突。

 接点から激しい火花。その眩しさに思わず目を細める。

 押し合いはさほど長く続かず、ドラ子が制した。

 切断された土球ガイアは、もろい土くれになって、朽ち果てた。

 ドラ子は空中で方向転換して、〝二番〟に突っ込んでいく。

 当たった。

 ――と思った瞬間、二番の姿は消えた。

 ドラ子が地面に墜落して、土埃が激しく舞い上がった。

「残念。そっちは分身サーバントなんだ」と、声がした。よく見ると、そこに影がある。

 俺たちが土球ガイアに気を取られている間に分身サーバントを出して、本体は透明化トランスペアで隠れたのか。

「バカだね。回転攻撃のあとの長い行動不能スタンを僕は一度見てるんだよ。まともに受けてあげるわけないだろ?」

「バカはテメェだ」と円月輪ドラ子が言って、影の上の空間を高速で薙ぎ払った。

「がっ……!」

 空間から血がしたたって、覆面を切り裂かれた二番の姿が現れた。

「テメェがバカだと言える根拠は二つ。

透明化トランスペア使用中は無防備になる。

②あたしが弱点を克服しないわけがない」

「……認めよう。一本取られた」と言って、二番は足元の地面を逆三角錐型に切り取り、浮上した。

「覚悟があるなら、やってみなよ。でも、僕らに本気で抵抗するには、世界中の使い手にこの話を信じさせて、統一戦線を張らなきゃいけない。今の時点で僕らの本部にさえ辿り着いてない君たちじゃ、難しいんじゃないかなぁ」

 ドラ子は人間型に変わって仁王立ちになり、「うるせぇ! 〝冥途の土産〟の次は〝捨て台詞〟か? お子様は発想が貧しいな!」とわめき散らした。

「……」

 二番は、浮遊する地面に乗って去っていった。


「ドラ子!」

 俺が駆け寄っていき、ハイタッチをしようとすると、「あー、ちょい待ち」と言って、ドラ子は地面に座り込んだ。

「ははは、ちょっと見栄張った。実はまだ克服しきったわけじゃないんだわ」


                 (了)

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