4-17 楽園
「グランクロワ博士」
天体望遠鏡の中の星が話しかけてきた時、私は自分の耳を疑った。
「空耳ではありませんよ。空よりも高いところからですので」
「……」
「案外早く見つけられてしまいましたね。せいぜいあと二年ぐらい先のことだと思っていたのですが」
「……」
「皆さんの注意が宇宙へ向かないように、そちらの言葉で言うところの〝魔物〟を定期的に送り込んでいたのに、物好きな研究者がいたものです」
彼女の――女性の声だった――言う通りなら、
あり得ない。
が、あり得ないなら、この声はなんだ?
「私の声は、そちらに聞こえるのか」
「はい」
「君は、誰だ? 彗星そのものなのか?」
「いえ、その彗星の内部にいる存在です。正しくは彗星ではなく、
「
「あなたが計算した通り、この
「……押し込み強盗かね」
「そういうことになりますね。しかし、我々にも、母星が天変地異で住めなくなったという事情がありまして」
「だが、見つけたからには、対策をさせてもらうぞ」
「不可能です」
「……」
「その計算もお済みでしょう? 世界中の才能ある魔導士が一丸となっても、この
「少なくとも、今は、そうだ。しかし、全員が飛躍的に成長すれば……」
「言っていて虚しくありませんか? 〝全員〟が〝飛躍的〟になどと」
「……」
「〝飛躍的〟な成長曲線が描けたとしても、九分九厘間に合わない。あなたにはわかっているはずです」
「それでも、やるしかない」
「そんな儚い希望にすがるより、夢をご覧になりませんか?」
「夢?」
「こちらの技術者を十名ほど派遣しましょう。彼らはマナの取り出し方も心得ていますから、土地の造成さえ可能です」
「……」
「彼らを使って、楽園をお造りください。ちょうど戦争の危機のようですし、絶好の機会ではありませんか?」
そして私は、
すべての山にプルーフと名づけた特殊な通信石を忍ばせ、獲得者は〝希望の芽〟と見なし、技術者を使って排除した。
そこで、地上の魔力資源を上乗せするために、渚旅団を組織した。
「渚」とは、空でも大地でもない、という意味だ。空の彼方から刻々と迫る
どうやら技術者たちも押し込み強盗という意識はあるようで、特に九番は我々に対して同情的らしい。
だが、率直に言って、ありがた迷惑だ。私は夢を見る道を選んだのだから。あたたかい毛布にくるまれたまま、幸せに滅びようと決めたのだから。
――ベリタス天文台特任研究員 グスタフ・グランクロワの日記より
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